最弱スキルで転生した俺、気づけば英雄になっていた。
【最弱スキルで転生した俺、秘密のお使いで命がけ!?】

「よし……まずはギルドに戻るか」

ギルドに顔を出して、今日の任務の報告と……そして、渡されたこの重たい箱をどうすればいいのか、相談しよう。
俺は木箱を抱え直し、よろよろと歩き始めた。 

まだ体のあちこちが痛む。
昨日の魔物との戦いの後遺症だろう。
──でも、気力は、不思議と湧いていた。

(俺も、冒険者っぽくなってきたな……!)

そんな、ちょっとした自信を胸に抱きながら。

***

ギルドに着くと、ガロスさんがカウンターででっかい声を張り上げていた。

「おおっ、新人!! 生きて帰ってきたか!!」

「……なんとか」

「ハハハ! 顔色は最悪だがな!」

ガロスさんはドカドカと歩み寄ると、俺が抱えている木箱に目を止めた。

「それ、なんだ?」

「えっと……宿屋のおばあちゃんから、薬師さんへの届け物です」

「……ふぅん?」

ガロスさんは眉をひそめ、木箱をコンコンと叩く。

「この辺りの“薬師ルド婆さん”ってのはな……ちとクセが強ぇぞ?」

「クセ、ですか?」

「昔から色んな薬やら怪しいモンを作っちゃあ、変な実験してるらしい。最近はあまり町に降りてこねぇけどな」

(なんか……嫌な予感しかしないんだが)

「まぁ、いいさ。どうせヒマだろ? 行ってこい行ってこい」

「軽いなぁ……!」

俺は心の中でツッコみながらも、覚悟を決める。

(……やるしか、ない)

***

ギルドを出て、再び森の方角へ向かう。
森といっても、今回行くのは町からそう遠くない、比較的安全なエリアらしい。

道中、すれ違った商人のおっちゃんが、にこやかに声をかけてきた。

「お、兄ちゃん、その箱、まさかルド婆さんとこかい?」

「はい、そうなんですけど……」

「……頑張れよ。あそこの婆さん、たまに『気に入らねぇ』ってだけで追い返すからな」

「えっ」

「いや、悪い人じゃねぇんだがな。機嫌だけは、神の采配並みに読めねぇんだ」

(なんだそれ!?)

ますます不安になる。

木箱の中身は、カラカラと骨が鳴り、
蓋の隙間からは、うっすらと怪しげな匂いが漏れてきている。

(……これ、ほんとに届けていいやつか?)

俺は何度目かのため息をつきながら、森の中へと足を踏み入れた。

***

森の中は、昼間だというのに薄暗かった。

背の高い木々が陽の光を遮り、地面は湿った落ち葉でびっしり覆われている。
カサ……カサ……と、何かが動く音がするたび、俺はビクッと肩を震わせた。

「こ、怖くなんか、ないし……」

情けない独り言で、自分を励ます。

(大丈夫。敵が来たら、微風でかわして──……あ、でも短剣しかないんだった)

そもそも、俺が武器にしてるこの短剣も、戦利品の拾い物だ。
切れ味はお察しレベルだし、まともな訓練も受けてない。

(頼む、誰にも会いませんように……!!)

そんな必死の祈りが、天に届いたのか──

──届かなかった。

「……ぐるるるる」

低いうなり声。
茂みの奥から、真っ赤な目を光らせる魔獣が一頭、現れた。

(うわああああああ!!!??)

よりにもよって、こんな時に!!!

相手は小型とはいえ、魔力を帯びた野生獣【マナウルフ】だ。
毛並みは逆立ち、涎を垂らし、明らかに俺を獲物として見ている。

(戦うしか──いや無理だろ!! 無理だろ俺!!!)

一瞬でパニックになりかけたその時。

微かに、俺の背後から風が吹いた。

(──!!)

微風スキル、発動。

マナウルフが踏み込んできた瞬間、わずかにバランスを崩した。

(今しかない!!!)

俺は必死で地面に転がりながら、手にしていた短剣を振り上げた。

ガギンッ!!

短剣がマナウルフの爪とぶつかり、火花を散らす。

「うおおおおおおお!!!」

力任せに短剣を振り回す!
もう、技術も何もない! ただただ、必死だ!!

「ぐるぁああ!!」

マナウルフが吠え、俺を押し倒そうとする。

(やばい──やばい!!!)

その瞬間、また、スキル【微風】が発動した。
ふっと吹いた風に、マナウルフの目が一瞬、細くなる。

(今だ!!!!)

俺は渾身の力で、短剣を突き出した!!

ザクッ──!!

短剣はマナウルフの肩口に食い込み、血しぶきが飛び散る!

「きゃんっ!!」

マナウルフは悲鳴を上げると、そのまま森の奥へと逃げていった。

***

「……た、助かったぁぁぁぁぁ……」

俺はへたりとその場に座り込み、泥だらけの顔を空に向けた。

(スキル……微風、やっぱり、バカになんてできないな……!)

震える手で短剣を納め、木箱を抱え直す。

(まだ、終わっちゃいない……!)

ルド婆さんへの届け物。
これを届けきるまでは、俺の任務は終わらないんだ!

足元の悪い森道を、再び進み出す。

そして、数分後。

道の奥に、ぽつんと一軒──
ボロボロの、ツタに覆われた小屋が見えた。

(あれが……ルド婆さんの家……?)

ゴクリと唾を飲み込み、俺は小屋の前に立った。

扉には、なぜかドクロのマークが彫られている。

(……やっぱり、ヤバいところじゃないかこれ)

心底後悔しながらも、俺は震える指で、扉をノックした。

トン、トン、トン……

すると、中から、しゃがれた声が聞こえてきた。

「……何の用だい、若造?」

ギィィィ……

ゆっくりと開く扉。

そして、そこに現れたのは──
大きな丸眼鏡をかけた、小さな小さなおばあちゃんだった。

だが、彼女の手には、
明らかに魔法陣が刻まれた杖が握られていた。

(──やっぱり普通じゃねぇ!!!!)

ルド婆さんは木箱を見るなり、

「あぁお使いか。ご苦労だった。」

そう無愛想に言い、小屋に戻ろうとした。しかしルド婆さんはハッとしたかのように耳を疑うような言葉を言い放った。

「そうだねぇ、若いの。これを集めてきてくれないかい?」

「……はい?」

「そいつは急ぎじゃない。だから、2日間たっぷり休んで、ちゃんと体を整えてから来るんだよ」

ルド婆さんはにやりと笑うと一つの紙切れを渡してきた。そこには、

【魔鼠の尾】【森苔の心臓】【幻獣茸】──

(……絶対、まともな材料じゃないよなこれ!?)

「えっと、これ……自分で、取りに行くんですか?」

「もちろんさぁ?」

にっこり笑うルド婆さん。
その笑顔が、逆にめちゃくちゃ怖い。

「うまくいけば、あんたのスキル、ちょっとは成長するかもしれないよ」

(成長──!?)

その一言に、俺はぐっと心を掴まれた。

「……わ、わかりました。2日後、また来ます!」

「うんうん、元気があってよろしい」

にこにこしながら、ルド婆さんは小屋の奥へと消えていった。

***

ギルドに戻ると、ガロスさんが俺を見るなり爆笑した。

「なんだその顔! 化け物でも見たか!」

「……ある意味、見ました」

「ハハハハ!! まぁ、休め休め。新人が無理しても、いいことねぇぞ」

宿屋に戻った俺は、ベッドに倒れ込み、ぐったりと目を閉じた。

(2日後、か……)

たった2日間。
でも、俺にとっては、命の洗濯みたいな貴重な時間になる。

(絶対、次こそ、少しは成長してやる……!)

体を癒やしながら、次なるお使いに備えることを、俺は静かに誓った。

──そして、2日後。

まだ体の疲れが完全には取れていないけれど、
俺はまた、森へと足を踏み入れることになるのだった──!



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