最弱スキルで転生した俺、気づけば英雄になっていた。
第六章、【最弱スキルで転生した俺、まさかのギルドからスカウトされる!?】

……戦いは、終わっていた。

ゴブリン、オオカミ、巨大なイノシシみたいな魔獣。
森から押し寄せてきた魔物たちの群れは、冒険者たちと町の守備隊の奮闘によって、ほぼ壊滅。

負傷者は多少出たものの、命を落とした者は──いなかった。

「た、助かったぁぁあああ!!」

「みんな無事だ!!」

町中が、歓喜と安堵に包まれる。

その歓声を、俺は、ぺたりと地面に座り込みながら聞いていた。
全身、汗と血と土でぐちゃぐちゃだ。
喉はカラカラ、腕も足も痺れて力が入らない。

手には、使い古された短剣を持ったまま。
何度も振り回し、そして……何度も、必死に祈るようにスキルを発動させた。

「……はぁ、はぁ……」

何回倒れそうになったか、わからない。
実際、一度ゴブリンに飛びかかられて、死にかけた。

でもその時──微風が吹いて、ゴブリンのバランスが崩れた。
俺は、その一瞬の隙をついて、なんとか反撃できた。

──たまたまだ。偶然だ。
きっと、ただ運が良かっただけだ。

それでも……
今こうして、生きている。

(──俺、本当に、生き残ったんだ……)

ぼんやりと思った。

……そして、もう一つ、信じられないことが起きた。

「おい、新人!!」

ズカズカと近寄ってきた、ギルドのおっさん。
さっきの戦いで、指揮を執っていた大男だ。

額に傷のある、いかにも「歴戦の冒険者」って感じの人。
さっき自己紹介してたな……確か、名前はガロスさん。

ガロスさんは俺の前に立つと、ドンッと俺の肩を叩いた。

「お前、なかなかやるじゃねぇか!!」

「……へ?」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「お前のその、“微風”! あれで何人も救われたんだぞ!!」

「び、微風で……?」

俺は自分の手を見る。
短剣。
そして──スキル【微風】。

攻撃力も、防御力も、何もない。
たまに、ほんの少し、相手のバランスを崩すだけ。

そんなスキルが、役に立った……?

(……まさか、そんな……)

頭がついていかない。

俺の中の常識じゃ、「強い攻撃魔法」や「高い攻撃力の剣士」が活躍するのが当たり前だった。
こんな、地味で、影みたいな存在が、誰かの役に立てるなんて、思ってなかった。

──でも、ガロスさんは、ニッと笑って続けた。

「目立つ奴ばかりじゃ、パーティは勝てねぇんだ」

「派手な技で暴れる奴がいりゃあ、影で支える奴もいる」

「お前みてぇな細かいサポートがあるからこそ、全体が回るんだ!」

力強く、はっきりとした言葉。

(……認められてる)

そう思った瞬間、目の奥がジンと熱くなった。

その時──

「君ーっ!!」

小さな声とともに、バタバタと駆け寄ってくる影。
ミーナだった。

宿屋の娘。
戦いの直前、俺に食事と水をくれた、優しい子だ。

「すっごかったよ!! 君の風、ちゃんと私、見てたもん!!」

ミーナは目をキラキラさせながら言った。

「オオカミが、攻撃しようとした時、君の風でタイミングがズレたの! それで、他の冒険者さんが助かったんだよ!!」

「ミーナさん……」

「本当に、本当にありがとう!!」

ミーナはぺこりと頭を下げた。
その仕草が、胸にずしんと響く。

──誰かに、感謝された。
──誰かの役に立った。

たったそれだけのことなのに、こんなにも、心が満たされるなんて。

(……ああ、俺、やっぱり、ここで生きていきたい)

自然に、そんな思いが湧き上がった。

すると──

ガロスさんが改めて、俺の前に立ち、宣言した。

「だからよ。正式にうちのギルドに所属しねぇか?」

「──えっ」

耳を疑った。

「お前みたいな支援役、超貴重だ。育てがいもありそうだしな!」

「そ、そんな……俺、本当に微風しか……」

「だからいいんだっつってんだろうが!!」

ガロスさんはガハハと笑った。

「これから武器もスキルも、鍛えりゃあ伸びる!」

「最初から完璧な奴なんざ、いねぇんだ!」

熱い言葉が、胸に突き刺さる。

(俺でも、やっていけるかもしれない──)

まだ不安はある。
怖い気持ちもある。

でも、今ここで逃げたら、きっと一生後悔する。

だから──

俺は、ゆっくり立ち上がり、拳を握りしめた。

「……お願いします!! 俺、ここで──戦いたいです!!」

「よっしゃああああ!!!」

ガロスさんが大声で叫んだ。
周囲の冒険者たちも、どっと歓声を上げる。

「ようこそ、新人!!」

「これから鍛えてやるから、覚悟しとけよ!」

「まずは装備だな! 短剣じゃ心細いだろ!」

わいわいと盛り上がる中、俺は、笑っていた。

(俺にも、ちゃんと、居場所ができたんだ──)

温かい気持ちが、胸いっぱいに広がっていく。

森を抜けた夜空には、無数の星が輝いていた。
その下で、小さな冒険者の物語が、今、確かに始まった。

微かな風が、そっと俺の背中を押す。

──最弱スキル【微風】
たったそれだけの力でも、前に進む力になれる。

そう、信じた夜だった。
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