最弱スキルで転生した俺、気づけば英雄になっていた。
【最弱スキルで転生した俺、不気味な材料を集める。】

森の奥、湿った空気の中を、俺──クレム・ブランカは必死に駆けまわっていた。

「うわああああああああああああああッ!!!」

右から魔鼠、左からは小鬼みたいなモンスターが突っ込んでくる。
俺は短剣をぶんぶん振り回しながら、なんとか回避。
たま〜に発動する《微風》が、かろうじて攻撃をそらしてくれるものの──

(無理!! こんなの無理だってぇ!!)

森苔の心臓? 幻獣茸?
そんなもん探してる場合じゃねぇ!!
命の心配で頭がいっぱいだ!

必死で森の中を逃げ回る。
だけど──足がもつれて、バランスを崩す。

そのまま仰向けに倒れて見上げると、魔鼠たちが鋭い牙を剥いて飛びかかってきていた。

(やばい、終わった……!!)

目をつぶった──その瞬間。

「──どいて。」

ふわりと、銀色の風が舞った。

次の瞬間、魔鼠たちは何かに吹き飛ばされ、地面に転がった。

「えっ……?」

目を開けた俺の前に、ひらりと舞い降りたのは──白の髪を持つ少女。

赤い色の瞳。
小柄だけど、その身にまとった雰囲気は、とてつもなく鋭かった。

「……アベル……!」

俺は思わず、その名を口にする。

前におばあちゃんの"秘密のお使い"で会った少女。
だけど、まさかこんな場所で、また会うことになるとは──!

「何してるの。……死にたいの?」

ぴしゃりと冷たく言い放つアベル。
手には、赤い魔方陣が出ていた・
「あ、あの、その……」

情けない声を出すクレム。
でも、アベルは溜め息をひとつつきながら、俺に手を差し伸べた。

「立って。素材、まだ必要なんでしょ?」

その声に、胸がじんわり熱くなる。

(……助かった……)

俺は泥だらけの手で、アベルの小さな手を握った。


魔鼠たちを吹き飛ばした少女は、ぱっと明るい笑顔を見せた。

「やっほー!クレムくんだっけ? また会ったねーっ!」

まるで森でピクニックでもしてるかのようなノリで、
ぴょんとクレムの隣に飛び降りる。

「い、生きてた!? よかったぁ〜! あれ?でも泥だらけだね?すごいね?変な芸でもしてたの?」

「……いや、必死に逃げてただけだよ!!」

「そっかぁ! 頑張ったねっ!」

バシバシとクレムの背中を叩くアベル。
そのあまりの天真爛漫さに、クレムは呆気に取られるしかなかった。

(なんだこの子……強いし、無邪気だし……マジで意味わからん……!)

でも、そんな明るさが、
森の陰鬱な空気を一気に吹き飛ばしていく。

「よーしっ、素材集め、手伝ってあげるっ!」

アベルは剣をクルクル回して、にかっと笑った。

「大丈夫、私、強いから!」

「……知ってるよ!!」

こうして、天真爛漫最強少女・アベルとの、素材採集大冒険が幕を開けたのだった──!

しかし――

俺たちが森を進み始めて、わずか数分後。
すぐに、想像以上の問題が発生した。

「ねぇねぇクレムくん、これって食べられるかなぁ?」

アベルが手にしていたのは、どう見ても毒々しい紫色のキノコ。
しかも、頭の部分が小さくピクピク動いている。

「絶対食うな!!! まずそれ素材ですらないからな!!!」

「えぇ〜? でも美味しそうなにおいするよ?」

「絶対するわけないだろ!?鼻壊れてんのか!!?」

しかも、アベルは木の上に登ったり、川に飛び込もうとしたり、
やりたい放題。

(た、頼れるって思った俺がバカだった!!)

額に汗を滲ませながら、必死にアベルを止めてまわる俺。

だけど、そんなアベルの無邪気な笑顔を見るたびに、
ほんの少しだけ、心のどこかが温かくなるのを感じていた。

「クレムくん、クレムくん、これすっごい光ってるよ!」

「わぁああっ、それは幻獣茸だ!! ナイスだアベル!!」

アベルが見つけたのは、求めていた素材のひとつ。
森の奥、苔に埋もれるように咲いていた、青白く光る小さな茸だった。

(やった……やっと、やっと一個!!)

感動に震えながら、そっと採取しようとする。

だがそのとき。

バキッ!!

「っ!?」

茂みの向こうで、明らかにデカい何かの足音が響いた。

次の瞬間、現れたのは──
体長3メートルはあろうかという、巨大な熊型モンスターだった。

「……え」

クレムも、アベルも、固まる。

だがアベルは、ニコッと微笑んで、軽く手を振った。

「こんにちは〜!」

「絶対敵だあああああああああああ!!!」
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