最弱スキルで転生した俺、気づけば英雄になっていた。
【最弱スキルで転生したした俺、ついに微風から進化?!】
「絶対敵だあああああああああああ!!!」

巨大な熊型モンスターが、咆哮を上げながら俺たちに向かって突っ込んできた。

(やばい……こんなの、勝てるわけ──)

その時だった。

「──クレムくん、下がって。」

アベルが、ふっと静かに笑った。
だがその瞬間、彼女の瞳が、ぞくりとするほど真っ赤に染まったのを俺は見た。

「……え?」

いつもの天真爛漫な空気とはまるで違う、氷のように冷たい声。

アベルはスッと右手を前に伸ばすと、魔力の塊を軽く生み出した。

「【連弾・火光弾(ブレイズバースト)】」

小さな光球が、一気に数十個生まれ、熊型モンスターへ一斉に放たれる。

ズドドドドドドドド!!

森に轟く爆音。
巨大なモンスターが、火花に包まれて吹き飛んだ。

(な、なんだこれ……魔法の威力が、桁違いすぎる……!!)

俺は呆然と立ち尽くしながらも、
短剣を握りしめ、何とかその脇で必死に援護する。

熊型モンスターが片膝をつきながらも、うなり声を上げ、なおも立ち上がろうとする。

「クレムくん、もう少しだけ耐えてて。」

赤い瞳のまま、アベルが静かに言う。

「お、おう!!」

(できるだけ、足止め……足止めだけでも!!)

俺は恐怖に足を震わせながらも、
《微風》スキルを発動。

シュンッ──!

ふんわりとした風が、熊型モンスターの顔を撫でる。

(いや弱っっっ!!!)

だが奇跡的に、一瞬だけ相手の動きが止まった。

その隙を、アベルは見逃さなかった。

「【雷槍・一閃】」

ゴオォォォォォッ!!

真っ白な雷が、彼女の手から放たれる。
雷槍は熊型モンスターの心臓めがけて一直線に走り──

ズガァァァァァァン!!!

ものすごい音と共に、モンスターは地面に沈んだ。

森に、しんと静寂が戻る。

「…………」

アベルはまだ真っ赤な瞳のまま、じっとモンスターを見つめていた。

怖いくらい静かで、凍り付くような空気。

だが──ふと。

「えへへっ、勝ったぁ〜!」

ぱちんっと笑顔を取り戻し、目の色も元に戻ったアベルが俺に抱きついてきた。

「クレムくんのおかげだよーっ!」

「えっ、俺なんかした!?」

「うんっ! クレムくんがふわ〜って風を吹かせたでしょ? あれ、すっごい大事だったんだよ!」

アベルはそう言って、にぱぁっと笑った。

(いやいや、風くらいで……)

内心ツッコみながらも、無邪気な笑顔に、否定する気力も削がれる。

「はは……まあ、俺も頑張った、ってことで……」

そのまま、ドサリとその場に座り込む。
全身、汗と疲労でヘトヘトだった。

──それにしても。

あの時、アベルの目が真っ赤に染まった時。
あの冷たい声と雰囲気。

あれは、何だったんだろう。

(まるで、別人みたいだった……)

「アベル、さっきの……」

俺が尋ねようとした瞬間、アベルはにこっと笑いながら、
俺の頭にポンポンと手を置いた。

「……今は、秘密っ!」

「うっ……」

軽やかにかわされる。

(……まあ、いいか。)

今は、ただ無事で、こうして一緒にいられることだけで十分だ。

「よし、帰ろっかー!」

「お、おう!」

俺たちは、目的だった【幻獣茸】を手に、森を後にした。

──その帰り道。

俺は、ちょっとした異変に気づいた。

【スキル経験値がたまった!】
【《微風》が成長しました!】

「へ……?」

画面に浮かんだ文字に、思わず声が漏れる。

【微風】→【疾風】に進化しました!

(しっぷう!? え、進化!?)

驚いていると、アベルが横から顔を覗き込んできた。

「どしたのどしたのー?」

「いや、俺の……スキルが、進化したみたいで……」

「わぁっ! すごいすごいっ!! やっぱりクレムくん、才能あるよぉ〜!」

「そ、そうかなぁ……?」

嬉しいけど、若干バカにされてる気もする。

でも、素直に喜んだ。
だって、俺の最弱スキルが、ちゃんと成長したんだ。

(……俺でも、少しずつ強くなれるのかな。)

小さな希望を胸に抱きながら、俺たちは町へ戻っていった。

【駆け出しの町・リーベル】

夕暮れが町を金色に染める中、
俺たちはいつもの宿──《月影亭》へと帰還した。

「おかえり〜!」

ミーナが、満面の笑顔で出迎えてくれる。

「あっ! ミーナちゃんただいまっ!」

「おかえり、アベルちゃん。クレムくんも、無事で良かったぁ〜!」

バタバタと走ってきたミーナに抱きつかれ、思わずぐらりとよろめく。

「ぐはっ……い、今、体力ないから……」

「ふふ、ごめんごめん〜!」

アベルも一緒になって笑う。

そんな、あったかい光景が広がっていた。

(……ああ、俺、本当に、異世界に来たんだなぁ。)

森でモンスターと戦った恐怖も、アベルの変貌に感じた不安も、
この町に戻ってくると、不思議とふっと軽くなる。

ここは、俺の新しい居場所だ。

そう思えた。

「クレムくんっ、明日も一緒に依頼受けよっ!」

「ああ……うん、頑張ろうな。」

手を伸ばしてきたアベルの小さな手を、俺もぎゅっと握り返す。

(次は、もっと役に立てるように……)

そう誓った、夕暮れの帰還だった。
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