海に凪ぐ、君の名前
どのくらい、時間が経ったのだろう。

気づいた時には、俺は部屋の戸に寄りかかったまま眠っていた。

気がついた時、意識はあるのに体は眠ったままのように重たく、動かせなかった。

「凪希さん」

コンコンと叩く音と、ナツさんの暖かな声が扉の向こうから響いた。

途端、抜けかかった魂が戻るように体が一気に軽くなった。慌てて立ち上がり、扉を開ける。

「すみません、眠ってしまったみたいです」

「お疲れのようですね。お食事はどうされますか?」

「っあ…」

そういえば、嵐が今日は家族の食事って言っていた。

今は、何時なんだろうか。もしかして、待たせてしまったのではないか?

背中に冷や汗が滲む。

「今、父と嵐は?」

喉がカラカラになって声が思うように出ない。

「嵐さんは、先程までいらっしゃいましたが、もうお部屋に戻られましたよ。智洋(ともひろ)様は、しばらく前から書斎にいらっしゃいます」

心に引っかかった重りがずるっと落ちたような感覚になった。

思い切り気が抜けた。肺に空気が入っていく感覚がする。

「そうですか、食事はもう終わってしまいましたかね。……あ、食器洗いますよね?急いで向かいます」

慌てて、着ていたままの制服のネクタイを緩めた。

「あらあら、お気遣いありがとうございます。ゆっくりで構いませんからね。凪希さんは本当にお優しいてすね」

ナツさんは柔らかに顔を崩した。ナツさんのこの笑顔がずっと好きだった。

つられて笑みがこぼれる。

それを見たナツさんはまた笑って、そのまま少し礼をして部屋の戸を優しく閉じて、下に降りていった。

「ああー…」

情けない声が溢れる。

父さんと嵐を待たせていなくて良かった。

安堵で腰が抜けそうになる。

本当に、情けない。俺は情けない。

だから、隠すんだ。

情けない自分とそれを見る視線から逃げるために、俺は虚勢をはって上手く逃げるんだ。

逃げ回るだけの俺だ。

そんな自分に、鼻で笑ってしまった。

はあっと息を着いて、重たい腰をなんとか上げる。

そして、またいつも通りの嘘の笑顔を貼り付けた。
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