新・安倍晴明物語~泰山に舞う雪の花~
第1話(2)天劫
天劫の日が翌日に迫ってきていたが、玉屑は一向に試練を回避する方法が思いつかない。泰山府君は玉屑が逃亡を企てていることを察知し「天兵が捜索するから逃げても無駄だ」と告げる。冥界の隠し通路を探していた玉屑はかつて冥府で働いていた小野篁が地上と冥界を往来していたことを思い出し、人知れず篁が利用していた通路の入口を探す。
その日の夜、玉屑は皆が寝静まった頃を見計らって密かに冥府を抜け出し、忘川に出た。彼女は忘川の端にある隠し階段を降りて、出口が開いていることを祈りながら通路を進んでいく。長い時間をかけて行き止まりに差し掛かった玉屑は、上から光が射し込んでいることに気付く。彼女は「出口は塞がっていなかったんだ」と喜び、蔦を頼りに壁を登った。地上に出た玉屑は現在地が六道珍皇寺の井戸だと分かり「せっかくだから、平安京を観光していこう」と寺を後にした。しかし、観光中に彼女は都の人々から妖女だと誤解され後を追われる。
満月丸が物忌を始めてから三日目の夜になり、彼は「今日で大凶の期間も終わりだ」と安堵する。家人たちはみな寝静まっていたが、満月丸はなかなか寝付けずぼんやりと夜空を眺めていた。しばらくして何者かが騒々しく門を叩き、助けを求める声がした。満月丸が咄嗟に門を開けると、玉屑が慌てた様子で勢いよく中に入ってきた。その後に朝廷の夜警が訪ねて来て、満月丸は不審な女を目撃したか問われる。彼は先程の少女だと察したが、彼女を守るために嘘をつく。
追手の足音が聞こえなくなった後、玉屑は満月丸に感謝して事情を説明する。満月丸は夜空に浮かぶ月を見上げて日付が変わったのか気にしたが、確かめる術はなかった。玉屑は満月丸に一晩だけ泊めてほしいと懇願し、彼は仕方なく夜が明けるまで彼女と過ごすことに決めた。
玉屑は神様の住む世界から来た仙人だと自己紹介し、満月丸は彼女が手を怪我していることに気付く。玉屑は井戸を登ったときに手を傷つけてしまっていたので、満月丸は彼女の手当をした。生まれて初めて同年代の男子に触れられた玉屑は、今までにない胸の高鳴りに動揺する。
やがて激しい雷雨が降り注いできたので、玉屑は思わず天を見上げた。雷鳴は徐々に大きくなり、彼女は天劫が追ってきたことに気付いて屋敷を出ようとする。すると、ちょうど彼女の真上が光った。満月丸は咄嗟に玉屑をかばい、代わりに天劫に打たれてしまった。異変に気づいた玉屑は満月丸をどかそうとするが、彼は天劫の衝撃でなかなか立ち上がれない。
しばらくして雷雨は止み、玉屑は責任を感じて「私のせいで迷惑をかけてしまった」と満月丸に謝罪する。満月丸は玉屑を励まし、夜が明けるまで彼女の側についていた。
明け方、忠行が満月丸の許を訪ねてきて、益材が病で急死したと告げる。天涯孤独になった満月丸は行き場を失い、悲嘆に暮れる。玉屑は何とかして満月丸に新しい家を用意してあげようと思い、忠行に満月丸を任せる。忠行もまた満月丸を哀れみ、息子の話し相手になるだろうと思って家に迎え入れることを決意した。
玉屑は満月丸に別れを告げ、助けてくれたお礼として彼女が付けていた雪の花の耳飾りの片割れを彼に渡した。玉屑は「この耳飾りはあらゆる危険からあなたを守ってくれる」と伝えて、屋敷を後にした。満月丸は、もう二度と玉屑と逢うことはないのだろうと思って、寂しさで胸がいっぱいになった。忠行は満月丸を連れて帰り、息子の保憲に彼を紹介する。保憲は身寄りのない満月丸をかわいそうに思い「兄と思って接してくれて構わない」と伝える。こうして、満月丸は賀茂家で保憲に仕え始めた。
長い年月が過ぎ、満月丸は元服のときを迎えた。忠行は満月丸の新しい名前を考え、ちょうど清明節だったことから「晴明」と名付けた。彼は「どちらの字にも『日』と『月』が含まれていて、陰陽師の弟子らしい名前だ」と自画自賛する。晴明は、忠行の期待に背かず誠心誠意保憲を支えていくことを約束した。
その日の夜、玉屑は皆が寝静まった頃を見計らって密かに冥府を抜け出し、忘川に出た。彼女は忘川の端にある隠し階段を降りて、出口が開いていることを祈りながら通路を進んでいく。長い時間をかけて行き止まりに差し掛かった玉屑は、上から光が射し込んでいることに気付く。彼女は「出口は塞がっていなかったんだ」と喜び、蔦を頼りに壁を登った。地上に出た玉屑は現在地が六道珍皇寺の井戸だと分かり「せっかくだから、平安京を観光していこう」と寺を後にした。しかし、観光中に彼女は都の人々から妖女だと誤解され後を追われる。
満月丸が物忌を始めてから三日目の夜になり、彼は「今日で大凶の期間も終わりだ」と安堵する。家人たちはみな寝静まっていたが、満月丸はなかなか寝付けずぼんやりと夜空を眺めていた。しばらくして何者かが騒々しく門を叩き、助けを求める声がした。満月丸が咄嗟に門を開けると、玉屑が慌てた様子で勢いよく中に入ってきた。その後に朝廷の夜警が訪ねて来て、満月丸は不審な女を目撃したか問われる。彼は先程の少女だと察したが、彼女を守るために嘘をつく。
追手の足音が聞こえなくなった後、玉屑は満月丸に感謝して事情を説明する。満月丸は夜空に浮かぶ月を見上げて日付が変わったのか気にしたが、確かめる術はなかった。玉屑は満月丸に一晩だけ泊めてほしいと懇願し、彼は仕方なく夜が明けるまで彼女と過ごすことに決めた。
玉屑は神様の住む世界から来た仙人だと自己紹介し、満月丸は彼女が手を怪我していることに気付く。玉屑は井戸を登ったときに手を傷つけてしまっていたので、満月丸は彼女の手当をした。生まれて初めて同年代の男子に触れられた玉屑は、今までにない胸の高鳴りに動揺する。
やがて激しい雷雨が降り注いできたので、玉屑は思わず天を見上げた。雷鳴は徐々に大きくなり、彼女は天劫が追ってきたことに気付いて屋敷を出ようとする。すると、ちょうど彼女の真上が光った。満月丸は咄嗟に玉屑をかばい、代わりに天劫に打たれてしまった。異変に気づいた玉屑は満月丸をどかそうとするが、彼は天劫の衝撃でなかなか立ち上がれない。
しばらくして雷雨は止み、玉屑は責任を感じて「私のせいで迷惑をかけてしまった」と満月丸に謝罪する。満月丸は玉屑を励まし、夜が明けるまで彼女の側についていた。
明け方、忠行が満月丸の許を訪ねてきて、益材が病で急死したと告げる。天涯孤独になった満月丸は行き場を失い、悲嘆に暮れる。玉屑は何とかして満月丸に新しい家を用意してあげようと思い、忠行に満月丸を任せる。忠行もまた満月丸を哀れみ、息子の話し相手になるだろうと思って家に迎え入れることを決意した。
玉屑は満月丸に別れを告げ、助けてくれたお礼として彼女が付けていた雪の花の耳飾りの片割れを彼に渡した。玉屑は「この耳飾りはあらゆる危険からあなたを守ってくれる」と伝えて、屋敷を後にした。満月丸は、もう二度と玉屑と逢うことはないのだろうと思って、寂しさで胸がいっぱいになった。忠行は満月丸を連れて帰り、息子の保憲に彼を紹介する。保憲は身寄りのない満月丸をかわいそうに思い「兄と思って接してくれて構わない」と伝える。こうして、満月丸は賀茂家で保憲に仕え始めた。
長い年月が過ぎ、満月丸は元服のときを迎えた。忠行は満月丸の新しい名前を考え、ちょうど清明節だったことから「晴明」と名付けた。彼は「どちらの字にも『日』と『月』が含まれていて、陰陽師の弟子らしい名前だ」と自画自賛する。晴明は、忠行の期待に背かず誠心誠意保憲を支えていくことを約束した。