S L S -病弱天然ちゃんはドSイケメンに溺愛される-
第一章⚫︎始まりは静寂の中で
 ここは都内でも有数の総合病院、撫子医科大学附属病院。その心臓内科の一室で、静かな音を立ててエコーの機械が動いていた。

「はい、大丈夫ですよ。服しまってくださいね。」
「先生、今日もありがとね。次の検診もよろしく頼みますね。」
「もちろんです。今日もお疲れ様でした。お大事に〜」

「お疲れ様でした〜」と声かけしながら看護師はサポートしつつ、診察室から退室するよう促した。患者が退室した瞬間、看護師は話しかける。

「白田先生、大丈夫ですか?顔色が……」

「……あ、うん、大丈夫。ありがとう、心配かけてすみません。」

 ふわりとした笑顔で答えるのは、心臓内科の3年目の医師・白田凛(しろた・りん)。白衣の下から透けるような肌に、細く繊細な指。誰が見ても華奢で、どこか守ってあげたくなる優しい雰囲気を持っていた。

 だが、その笑顔の裏で、彼女の心臓は異常なリズムを刻んでいた。

「……また、発作かな………なんか苦しいかも………ふぅぅぅ。」

 澪はそっと壁に手をつき、深く息を吐いた。

 そのとき――。

「おい、白田!!」

 低く、鋭い声が背後から響き、ビクッと肩を揺らした。

「お前…また無理してんじゃねぇだろうな?」

 声の主は、外科のエースで2年先輩の黒川廉(くろかわ・れん)。長身に整った顔立ち、冷ややかな瞳に、いつも人を見下すような態度。病院内では“ドS外科医”として恐れられていた。

 だが、凛の顔を見た瞬間、その表情が一瞬だけ和らぐのを、彼女は見逃さなかった。

「まったく……。お前みたいなもやしが医者やってるの、まだ正直信じられねぇわ。」

「ひどいです……。でも、ありがとうございます。黒川先生……心配して来てくれて。」

「は?別に心配してねぇし。ただ、お前倒れたら面倒なんだよ。俺が代わりに診察回る羽目になるだろ」

 そう言いながら、黒川は無造作に彼女の額に手を当てた。

「熱は……ねぇか。でも顔色悪ぃな。お前の大嫌いな点滴打つぞ。すぐに!無理してたのが悪いんだからな。」

「えーーー!そんなぁ。嫌だな………でも打たないとドクターストップかけて強制帰宅にしますよね?それは嫌なので…。分かりました。受けます……。」

黒川に連れられ白田はトボトボと医局へ向かう。
この病院の医局は広く、デスクはもちろん仮眠室や談笑室、ちょっとした処置室も完備されてる。

 優しさをぶっきらぼうに隠しながら、それでも彼の指先はどこか優しくて――凛はその温もりに、今度は違う意味で鼓動が乱れ、胸の高鳴りが止まらないのを感じていた。
< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop