この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
プロローグ
愛しい背中にそっと手を伸ばす明日香。触れる直前に彼は振り返る。
中途半端に上げた状態だった手は自分とは異なる大きな手に包み込まれ、そのまま彼の方へと引き寄せられた。
二人の距離はわずか数センチまで縮まる。
やわらかな微笑みと手の温もりが、とても愛おしい。
明日香は彼に触れる指先に、彼を見つめる瞳に、そして、彼への愛を紡ぐ唇にありったけの想いを宿す。
「慶介、好きだよ。本当に好き」
特別な意味を込めた言葉は果たして彼に届くだろうか。大きな不安を抱えながらじっと彼を見つめる。
もしも同じ想いを抱いてくれているならば、きっと言葉の真意に気づいてくれるはず。
明日香は、どうか気づいてと願いながら問いかける。
「慶介は?」
不安で揺れる明日香の瞳に映るのは、とても楽しげな慶介の表情。彼はくすりと笑いをこぼしてから答える。
「いつも言ってるだろ? 明日香が好きだって」
あまりにもさらりと言ってのけるその言葉は二人の約束事。彼はいつだってその言葉をくれる。
偽りの『好き』を。
だが、それは明日香の真意とはほど遠いもの。同じ言葉でも込められた意味が真逆。明日香の『好き』はとうの昔に偽りを超えているのだから。
期待とは裏腹の回答に、明日香は悲しみを湛えた笑みを浮かべる。
「……そうだね」
慶介と目を合わせていられなくて思わず俯く。そんな明日香に、彼はいつもの言葉を囁く。
「好きだ、明日香」
思わずきゅっと慶介の手を握りしめる。
慶介からの『好き』が嬉しくて、悲しい。できることならば、なにも考えずにその言葉を受け取ってしまいたい。偽りの両想いにずっと浸っていたい。
しかしながら、二人の均衡が崩れているとわかった以上、この関係を続けることはできない。終わりへ向かうときが訪れたのだ。
明日香は悲しみをこらえて、慶介に懇願する。
「ねえ、抱きしめてほしい」
「いいけど。急にどうしたんだ?」
「……別に。ただなんとなく」
今の気持ちを表に出すことはできず、適当な誤魔化しの言葉を口にすれば、慶介はそれ以上は訊かずに明日香の望みを叶えてくれる。
「これでいいか?」
慶介の温もりに包まれてとても温かいはずなのに、なぜか体の芯は冷えたままでとても寒い。
「……もっと。もっと強く」
絞り出すような声で望めば、慶介からの抱擁が苦しいくらい強くなる。
「本当にどうしたんだよ。なにかあったのか?」
明日香を心配するように優しく問う慶介の声に、強く胸が締めつけられる。なにか言葉を発すれば、泣いてしまいそうで、明日香は黙ったまま、ただ静かに首を振って答えた。
悲しみを腹の底に沈めるように、飲み込んで、飲み込んで、飲み込んで――そうして嬉しさだけを浮上させた明日香は、そっと体を離してから彼に向かって微笑む。
「ありがとう、慶介」
「なんだよ。おかしなやつだな」
おかしそうに笑う慶介の表情が愛しくてたまらない。明日香はその両目でしかと彼を見つめ、その笑顔を脳裏に焼きつけた。
中途半端に上げた状態だった手は自分とは異なる大きな手に包み込まれ、そのまま彼の方へと引き寄せられた。
二人の距離はわずか数センチまで縮まる。
やわらかな微笑みと手の温もりが、とても愛おしい。
明日香は彼に触れる指先に、彼を見つめる瞳に、そして、彼への愛を紡ぐ唇にありったけの想いを宿す。
「慶介、好きだよ。本当に好き」
特別な意味を込めた言葉は果たして彼に届くだろうか。大きな不安を抱えながらじっと彼を見つめる。
もしも同じ想いを抱いてくれているならば、きっと言葉の真意に気づいてくれるはず。
明日香は、どうか気づいてと願いながら問いかける。
「慶介は?」
不安で揺れる明日香の瞳に映るのは、とても楽しげな慶介の表情。彼はくすりと笑いをこぼしてから答える。
「いつも言ってるだろ? 明日香が好きだって」
あまりにもさらりと言ってのけるその言葉は二人の約束事。彼はいつだってその言葉をくれる。
偽りの『好き』を。
だが、それは明日香の真意とはほど遠いもの。同じ言葉でも込められた意味が真逆。明日香の『好き』はとうの昔に偽りを超えているのだから。
期待とは裏腹の回答に、明日香は悲しみを湛えた笑みを浮かべる。
「……そうだね」
慶介と目を合わせていられなくて思わず俯く。そんな明日香に、彼はいつもの言葉を囁く。
「好きだ、明日香」
思わずきゅっと慶介の手を握りしめる。
慶介からの『好き』が嬉しくて、悲しい。できることならば、なにも考えずにその言葉を受け取ってしまいたい。偽りの両想いにずっと浸っていたい。
しかしながら、二人の均衡が崩れているとわかった以上、この関係を続けることはできない。終わりへ向かうときが訪れたのだ。
明日香は悲しみをこらえて、慶介に懇願する。
「ねえ、抱きしめてほしい」
「いいけど。急にどうしたんだ?」
「……別に。ただなんとなく」
今の気持ちを表に出すことはできず、適当な誤魔化しの言葉を口にすれば、慶介はそれ以上は訊かずに明日香の望みを叶えてくれる。
「これでいいか?」
慶介の温もりに包まれてとても温かいはずなのに、なぜか体の芯は冷えたままでとても寒い。
「……もっと。もっと強く」
絞り出すような声で望めば、慶介からの抱擁が苦しいくらい強くなる。
「本当にどうしたんだよ。なにかあったのか?」
明日香を心配するように優しく問う慶介の声に、強く胸が締めつけられる。なにか言葉を発すれば、泣いてしまいそうで、明日香は黙ったまま、ただ静かに首を振って答えた。
悲しみを腹の底に沈めるように、飲み込んで、飲み込んで、飲み込んで――そうして嬉しさだけを浮上させた明日香は、そっと体を離してから彼に向かって微笑む。
「ありがとう、慶介」
「なんだよ。おかしなやつだな」
おかしそうに笑う慶介の表情が愛しくてたまらない。明日香はその両目でしかと彼を見つめ、その笑顔を脳裏に焼きつけた。
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