この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 真理をつく慶介の言葉に、明日香はなにも言い返せない。眉間に皺を寄せ、押し黙っていると、不意に慶介の雰囲気が和らぐのを感じた。

 彼の様子を見てみれば、携帯の画面を見ながらやわく微笑んでいる。

 慶介がその表情をするときは、決まってある人のことを思い浮かべているときだ。

「今の、奈菜(なな)からでしょ」
「勝手に見るなよ」

 どうやら携帯の画面を見られたと勘違いしたらしい。だが、明日香は慶介の表情を見ただけだ。

「見てないから。表情でわかるの」

 顔に出ている自覚があるのか、もう言い返してこない。先ほどとは逆転し、今度は慶介が押し黙っている。

「穂高も諦め悪いよね」
「いや、諦めてるよ。もうずっと前に諦めてる」

 遠い目をしている慶介を見れば、その言葉が嘘ではないとわかる。彼は明日香と同様に自分の恋を諦めている。その上でその恋を捨てられないでいるのだ。

 いったいどういう皮肉なのだろうと疑問に思わずにいられないが、慶介もまた幼い頃に出会った幼馴染・奥平(おくひら)奈菜に長い片想いを続けている。そして、なにを隠そう、奈菜こそが将人の恋人なのだ。

 明日香と将人、そして、慶介と奈菜は皆同じ大学の農学部出身。同じ年に入学した四人はいつの間にやら一緒に過ごすようになり、友人関係へと発展した。

 けれど、その関係性は友人だけにとどまらなかった。気づけば将人と奈菜は恋人の関係になっており、明日香と慶介は同時に失恋を味わったのだ。

 そして、それから二人はずっと不毛な恋を続けている。決して叶うことのない長い片想いを患い続けている。
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