この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~


 明日香の席で突如始まった騒動に、この部屋にいる全員の注目が集まっている。

 明日香は立ち上がって矢沢と対峙すると、毅然とした態度で言い返す。

「私はなにもしていません。全部矢沢さんが蒔いた種です」
「調子に乗ってるあんたが悪いのよ。仕事を奪うだけでなく、穂高くんにまですり寄って! 許せない!」

 すり寄るという言い方は我慢ならない。明日香と慶介の関係は対等なものだ。深い絆で結ばれている。矢沢にどうこう言われたくはない。

「私は与えられた仕事を全うしているだけです。それに穂高とは元から友人だったんです。すり寄るという言い方はやめてください」
「色目使ってるでしょうが! でも、残念ね。あなたとは違って、非の打ち所がない恋人がいるそうよ。穂高くんもそんな女を庇うのはやめなさいよ。あなたの価値まで下がってしまうわ」

 慶介の恋人は一応明日香だが、非の打ち所がない恋人という話はどこからきたのだろうか。その疑問に気を取られて、すぐには言い返せない明日香に代わり、慶介が矢沢に言い返している。

「なにを勘違いしているのか知りませんが、その非の打ち所がない恋人というのは如月のことですよ」
「っ!?」

 ぎょっとして慶介に視線を向ける。今、この男は明日香のことを恋人だと言わなかっただろうか。

 同僚がたくさんいる場で、しかも、注目を集めている状況で、なにを暴露しているのだろうか。

 もはや矢沢のことよりも慶介の発言によって、明日香は動揺する。

 矢沢は矢沢でひどく混乱の表情を浮かべている。冷静なのは慶介だけだ。
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