この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「いつも言ってるだろ? 明日香が好きだって」

 明日香は「そうだね」と言いながらも、なぜか俯く。なにを不安になっているのかはわからないが、それはいらぬ心配だ。

 慶介はこの気持ちは絶対に変わらないのだという思いを込めて、優しく囁く。

「好きだ、明日香」

 きゅっと手を握り返される。たったそれだけのことで、愛おしい気持ちがとめどなく溢れてくる。

 今すぐにその顔を上げさせて、甘いキスを交わしたいと思うが、明日香からは別のことを求められる。

「ねえ、抱きしめてほしい」

 明日香らしくない言い方に驚く。

「いいけど。急にどうしたんだ?」

 普段の明日香なら、自分から遠慮なく抱きついてくるはずだ。やたらと遠慮がちなのが気になって、思わず問いかけた。

 しかし、明日香からはこれといった答えは返ってこない。

「……別に。ただなんとなく」

 訝しみながらも、言われた通りに明日香を抱きしめる。大切に思っている気持ちが伝わるように、優しく包み込むように抱きしめた。

「これでいいか?」

 これでちゃんと満たされているだろうかと確認を取れば、明日香の口からは不安そうな声が漏れ出る。

「……もっと。もっと強く」

 どうにも様子がおかしい。なぜか明日香がどこかへ消えてしまいそうな気がして、慶介は強く、強く明日香を抱きしめる。

「本当にどうしたんだよ。なにかあったのか?」

 そう問いかけてみても、明日香は首を横に振るだけでなにも言わない。なにか我慢をしているのではないかと不安になる。

 我慢強いところは明日香の美徳でもあるが、慶介にだけはすべてを見せてほしいと思う。いつでも気にせず甘えてほしい。

 そんな気持ちを込めて、明日香を強く抱きしめ続けた。

 それからしばらくして慶介から離れた明日香の顔には、いつもの元気な笑顔が浮かんでいた。それを見てほっと息をつく。

「ありがとう、慶介」
「なんだよ。おかしなやつだな」

 よくわからないやり取りだったが、明日香が満足したならばそれでいい。

 嬉しそうな顔をしてこちらを真っ直ぐに見つめてくる明日香がかわいくて、慶介は顔に皺ができてしまうくらいの大きな笑みを浮かべていた。
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