この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「それなら老人ホームにでも入ればいい」
「えっ? まさか穂高はもうそんなこと考えてるの?」
「いや、さすがにこの歳で考えるわけないだろ。でも、将来の選択肢として頭の中には入れてある」

 慶介らしいなと思う。きっと奈菜への想いを無理に捨てる気がないのだろう。一人で生きていく道もすでに頭の中で描いているに違いない。

「さすがだね……はあ、老人ホームか。まあ、言いたいことはわかるけど、でも、老人ホームに入っても、寂しいのは変わらない気がするな」
「どうしてだよ。孤独になることはないだろ」

 そうではないと明日香は首を振る。

「ううん、心の問題だから。もしもほかの入居者から孫の話とか聞かされたらさ、とんでもなく寂しい思いをすると思う。自分の人生では得られなかったなって」
「孫が欲しいのかよ」
「そういうことじゃなくて、誰かと幸せに過ごした記憶が欲しいの。まあ、できれば子供は欲しいって思うけどね」

 慶介は軽く目を見開いて驚きの表情を浮かべている。

「それは知らなかった」
「うちの家族、すごく仲がいいんだよね。だから、自分もそういう家庭を築きたいなって憧れが強いのかも」
「そうか。まあ、そういうことなら婚活でもいいんじゃないか? 本気で結婚したいなら、正しい選択だと思う」
「うん……」

 明日香は曖昧に頷く。

 いずれ結婚したいという気持ちはあっても、やはり今はまだ将人のことが頭の中を占めていて、なかなか結婚までは考えられない。それに結婚をしたのに好きになれなかったらと思うと怖いのだ。

 明日香はふと思う。昔の人は見合いが普通だったはずだが、それでどうやって想いを育んでいったのだろうかと。

 一緒に暮らせば好きになっていくのだろうか。でも、明日香は恋人といても好きにはなれなかった。

 それなら好きだと思い込めばよいのか。あるいは、好きと言っていれば、いつかそれが本当になるのだろうか。

 頭の中の疑問を、明日香は唐突に口に出す。
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