この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 たくさんの一軒家が建ち並ぶ中に、ぽつぽつと点在するアパート。やたらと古いものもあれば、新築の真新しいものもある。そんなアパートのうち、比較的外観のきれいなアパートの前で明日香は足を止める。

 ここは明日香が二年前に越してきた築六年のアパート。家賃は少し高めだが、その分セキュリティーがしっかりとしている。エントランスはオートロックになっており、外壁には防犯カメラもついている。女一人で暮らしている身としては、安心できる物件だ。

 明日香がエントランスの前で、慶介にここが家だと伝えれば、彼は繋いでいた手を離し、別れの言葉を口にする。

「じゃあな。早く寝ろよ。おやすみ」

 すぐに背を向けた慶介はさっさと歩き去ろうとする。どんどん離れていくその背中を見ていると、なんだか無性に寂しくなって、思わず声をかけた。

「待って」
「ん?」
「もう少し話そうよ。家、上がってって」

 深く考えずにそう口にしていた。慶介とこのまま離れるのは嫌で、まだ二人の時間が足りなくて、引き止める言葉が勝手に出た。

 もう少しだけでいいから、今日はまだ一緒にいたい。

 しかし、明日香のその願いは叶えてもらえない。

「いや、やめとく」
「……そっか」

 しゅんとしてつぶやけば、慶介は小さく言葉をこぼす。

「しかたないな」

 なぜか明日香の目の前まで戻ってきた慶介は、先ほど繋いでいた手を再び握ってきた。

「近くのコンビニまで案内して」
「え? あ、うん。わかった」

 コンビニに行きたかっただけなのかと少し落胆しながらも、二人の時間が少しだけ延長されたことに喜びを覚える。

 気分を浮上させて二人でコンビニへと向かえば、慶介が購入したのはなぜか二人分のアイスだった。
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