この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「もしもし」
「あ、もしもし。よかった、出てくれて」
「うん、どうしたの? 珍しいよね、平日に電話って」
「ごめんね、仕事で疲れてるのに」

 たとえ疲れていたとしても、家族との電話を嫌だとは思わない。むしろ電話をくれて嬉しいくらいだ。

 明日香は自分の姿が相手には見えないとわかっていても、首を振りながら否定する。

「ううん。大丈夫だよ。それで、なにかあったの?」
「うん……如月味噌のことで、ちょっと話しておきたいことがあってね」

 如月味噌とは明日香の実家が営む商売のことだ。間もなく創業百年を迎えようとしている味噌の蔵元で、今は明日香の父が代表を務めている。

 幼い頃から如月味噌の味で育ってきた明日香は当然その味を愛しており、今も味噌だけは実家から送ってもらっているほどだ。

 そんな実家の商売に関する話と言われて、明日香は心配の声を上げる。

「えっ? うちになにかあったの?」
「あー、そんなに心配するようなことじゃないの。今、なにかが起きてるわけじゃないから。ただ、健吾が跡を継がないかもしれないって言い出してね」
「嘘っ!?」

 あまりに予想外の話に、思わず大きな声を出してしまう。

 健吾は明日香の六つ下の弟で、今はまだ大学生だが、彼は小さな頃から父の跡を継ぎたいと言っていたのだ。

「えっ、だって、ずっと跡継ぎたいって言ってたのに」
「そうなんだけど、大学でなにかやりたいことを見つけたみたいなの」
「いや、やりたいことって……ええ?」

 健吾が継いでくれるなら安泰だと思っていたのに、まさか健吾が継がない道を選ぶとは考えもしていなかった。

 明日香は軽いパニック状態に陥るが、母は冷静に今後についてを語る。
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