この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「無理に跡を継がせても、いいことにはならないでしょう? だから、如月味噌の今後についてはお父さんとどうするか話し合う予定。でも、その前に明日香には知らせておこうと思ってね。あなたは昔からうちの味噌が好きだから」

 母のその話しぶりから、如月味噌がなくなる可能性もあるのだと察する。明日香は怖々問いかける。

「それって商売をやめるかもしれないってこと?」
「そうね。その可能性もあるわね。今のところ、ほかに任せられそうな人はいないから」

 愛してやまない如月味噌がなくなるなど考えられない。明日香はひどくショックを受ける。

 どうしてもその未来だけは受け入れられなくて、明日香は無意識のうちに一つの質問を口にしていた。

「……ねえ、私が継ぎたいって言ったら、私が継ぐこともできる?」

 本当は明日香も父と同じ仕事をしてみたいと思っていた。如月味噌を守っていきたいと思っていたのだ。

 でも、弟が継いでくれるのならばとその思いは口にしなかった。遠くから見守るつもりでいた。

 だが、誰も継がないと言うのなら、手を挙げてみたい。かつての夢を追ってみたい。そんな思いから、問いかけていた。

「明日香には仕事があるでしょう?」
「わかってる。わかってるけど、可能性があるかどうかだけでも知りたい」
「明日香……ちょっと待ってね」

 母はそう言って電話口から離れたようで、しばらく静かな時間が続く。おそらく母は父と話しているのだろう。

 父にも明日香の言ったことが伝えられているのかと思うと、経験したことのない緊張を覚える。

 いったいどんな話をしているのだろうかと不安になっていると、母が電話に戻ってきた音とともに微かな笑い声が聞こえてきた。

「明日香、お父さんから伝言。うちの味噌が好きで、絶対に逃げ出さないという覚悟がある人になら引き継いでもいい、だって」

 頭から否定されなかったことにほっと息をつく。

「そう。そっか。でも、そうだね。覚悟は必要だね」

 今その覚悟があるかと言われると、まだはっきりとは答えられない。ただ、可能性があるとわかった今、明日香の中で新たな未来への道が確かに輝き始めた。

「まあ、まだどうなるか決まったわけではないから、あまり心配はしないで。お父さんと話し合ったら、また連絡するから」
「うん、わかった。連絡待ってるね」

 母との電話を終えた明日香は、はあと息をつく。かつて抱いていた夢を初めて親に告げたから、思いのほか緊張していたようだ。
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