この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 明日香はもう一度ベッドに寝転ぶと小さくつぶやく。

「覚悟か」

 跡を継ぐとなれば、生半可な覚悟では務まらないだろう。今の仕事はやめなければならないし、この場所も離れなければならない。

 今まで想像していたものとはまるきり違う人生になるはずだ。

 明日香は地元に帰り、父の跡を継いだ自分を想像する。きっと充実した日々を送れるだろうと思うものの、とてつもなく寂しい気持ちを抱く。

 もしも明日香が地元に帰ってしまったならば、もう慶介と今のようには過ごせない。明日香の傍らに彼の姿はなくなってしまうのだ。

「慶介……」

 彼の名を口にすると余計に寂しさが増していく。

 慶介が本当の恋人だったなら、自分の将来について、二人の未来について、相談することもできただろうが、仮の恋人関係ではそんなことできるはずもない。

 いっそのこと、ただの友人関係だったならば、軽い調子で話すこともできたかもしれない。だが、今の関係ではそれも難しい。

 慶介と離れがたく思っている自分がいるのに、軽々しく将来についての話などできない。だからといって、本物の恋人になってほしいとも言えない。

 慶介に対する気持ちが恋心からくるものだと、まだ自信を持って言えないのだ。強く惹かれている自覚はあるが、将人への気持ちをこじらせていた分、簡単には次へ進めない。明確ななにかがなければ、どうしても恋とは認められないのだ。

 今の自分がひどく中途半端な状態であることを自覚し、明日香は深いため息をこぼす。

 恋の実験は将人への気持ちを断ち切るためにやってよかったとは思っているが、このままずっと慶介とこの関係を続けるわけにはいかないだろう。いい加減、現実を見なければならない。仮初の恋はいつか終わるのだ。

 それは最初からわかっていたことなのに、今さらながらはっきりと認識して、明日香は胸が痛くなるほどの切なさを覚えた。
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