この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
第五章 心変わりに気づくとき

1. 今、脳裏に浮かぶ人

 すっかり日も暮れ、夜景が美しさを増す時間帯。慶介と密室に二人きりの状況にもかかわらず、明日香はときめきよりも申し訳なさを募らせる。

 助手席から見る慶介の姿はとても素敵で惚れ惚れとするものの、仕事で疲れている慶介に自宅まで送らせている状況を考えれば、とても心苦しい。

 あの変な男に絡まれて以来、慶介は毎日必ず明日香を自宅まで送ってくれるが、一ヶ月以上もそれが続けば、きっと誰だって申し訳なく思うはずだ。

 しかも、研究所勤務の場合、車通勤をしている都合上、帰りだけでなく、行きまで車に乗せてもらう形になるから、なおさら申し訳なくなる。

「ねえ、やっぱり毎日だと大変じゃない? 私はもう一人でも大丈夫だよ」
「俺が心配なんだよ。もうあんな思いはしたくない」

 一応の恋人関係であるとはいえ、ここまで大切にされていることに胸が締めつけられる。未だに中途半端なままの自分に嫌気が差してしまいそうなほど、慶介の優しさが身に染みている。

「慶介……」
「俺は大丈夫だから、ちゃんと家まで送らせてほしい」

 甘えすぎているとは思うものの、慶介の優しさに抗うのはとても難しい。いつもそこに寄りかかってしまう。

「わかった。いつもありがとう、慶介」
「おう」
「今度なにかお礼するね」

 せめて恩返しはしたいとその言葉を口にすれば、慶介は嬉しそうに微笑む。

「じゃあ、なにかうまいもんでも頼む」
「それなら任せて!」

 それは得意分野だと、わざとらしく胸を叩いてみせれば、慶介はとても楽しそうに笑い出す。

「ははっ。食べ物に関しては、明日香以上に頼りになるやつはいないからな。楽しみだな」
「次のデートでおいしいものたくさんごちそうするから、期待していいよ」
「おう。期待しとくわ」

 車内に和やかな空気が流れる。

 慶介へのときめきが増えたとしても、友人の頃のように二人で楽しく騒ぐ時間は決してなくならない。そのことが嬉しい。慶介との気さくなやり取りに自然と表情が和らぐ。

 もう少しこのやり取りを続けていたいと、明日香はなにか軽口を言おうとするが、ポケットの中の振動がそれを阻止した。
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