この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~

2. 胸が痛む理由 side慶介

 夕飯時の杉崎。仕事帰りの客で店内が賑わい出す中、カウンター席の端に座る慶介と明日香は、周囲の騒がしさなど気にせず食事をする。絶品料理に二人して賛辞を送りながら、心ゆくまで料理を味わう。

 やはり明日香との食事はなにものにも代えがたい至福の時間だ。慶介はこの時間に癒されるが、そんな癒しの時間はわずか三十分ほどで終わりを迎える。

 隣に座る明日香の箸がなぜかピタリと止まってしまった。明日香はまだ半分しか食べていないだし巻き卵をじっと見つめている。

 いや、正確には見つめているわけではない。ただ視線がだし巻き卵の方に向いているというだけで、その瞳にはなにも映っていないようだ。

 なにか考え事でもしているのだろうかと、しばらく様子を見てみても、明日香はそのまま動かない。さすがに、そんな姿を見せられると不安になる。

「大丈夫か? さっきからぼーっとしてるだろ」

 慶介の声でようやくこちら側に意識が戻ってきたのだろう。明日香はハッとして慶介に視線を合わせてくる。

「あ、ごめん」
「体調、悪いんじゃないか? ここ最近、あまり元気ないだろ」

 ここ数日、明日香はどうにも調子がよくないように見える。今のように時折ぼーっとすることが増え、時には眉間に深く皺を寄せてつらそうな表情を浮かべている。

 なにか悩み事でもあるのではないかと何度か尋ねもしたが、明日香はそのたびになんでもないと答え、慶介にはなにも打ち明けてくれない。

 なにか困りごとがあるとしか思えないが、明日香は今も微笑みを浮かべて誤魔化している。

「ちょっとぼーっとしてただけだよ」

 ちょっとどころではないだろう。そう思ったのはどうやら慶介だけではないらしい。

 女将の静香も明日香を心配して声をかける。
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