お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています
父の言葉が、ゆっくりと胸の奥に沈んでいく。
橘航太の叱るでも慰めるでもなく、ただ自分を受け止めてくれた眼差し。

唇が震えた。
胸が、締めつけられるように苦しい。

「……私……」
紗良の声はかすれていた。

「私、橘さんと一緒にいたら……苦しくなるんです……」

そう言った瞬間、ぽろりと、涙がこぼれた。
それは一粒だけではなかった。止めようとしても、頬を伝って次々にあふれてくる。

父は、その涙を静かに見つめていた。
何も言わず、ただ待っていた。娘が自分の感情に追いつくのを。

「……守ってくれるのが、嬉しくて、怖くて……
 信じたいのに、不安で……
 でも、どこかでずっと、そばにいてほしくて……」

涙に濡れた瞳で、父を見上げる。

「こんな感情、今まで知らなくて……自分でも、どうしたらいいかわからないんです……」

父は、ゆっくりと紗良の手を握った。
その手は、大きくて、昔と同じように温かかった。

「それはな、紗良」

柔らかく、包み込むような声で言った。

「……それが“恋”ってやつだよ」

一瞬、紗良の目が見開かれる。
でも、それは否定できるものではなかった。
むしろ、ようやく輪郭を得た感情が、胸の奥にじんわりと広がっていく。

「……恋……」

紗良はその言葉を、小さく呟いた。

自分がいま、何を守りたくて、何を恐れているのか。
ようやく、その答えにたどり着いたような気がした。
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