お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています
父は、しばらく何も言わなかった。
ただ、娘の顔を静かに見つめていた。
やがて、ゆっくりと息を吐き、言葉を選ぶように口を開く。
「……お前の気持ちは、痛いほどわかったよ、紗良」
その言葉は、決して軽くはなかった。
父としての、そして政治家としての重みを帯びていた。
「だが――橘は外せない」
紗良が顔を上げ、驚いたように父を見る。
「どうして……? 警護なら、他の人でも……」
父は、椅子に深く座り直し、目を細める。
「紗良、お前は……私の分身なんだ」
その言葉は、温かく、同時に切実だった。
「安西先生が襲撃された後、亡くなるまでの間に……毎日、私に電話をくれたんだ」
記憶を辿るように、父はゆっくりと語る。
「かすれた声でな。呼吸も苦しそうで、それでも絞り出すように伝えてくる。
“今のうちに、全部言っておかなきゃ”と……。私が何も言えなくなるくらい、毎晩、震える声で話してくれた」
そして――
「最後に、安西先生はこう言った。
“この世で一番大切なものは、橘に守らせろ”と」
父は唇を引き結び、静かに続けた。
「そのときは、正直思ったよ。なぜ、あの新人警護官を?と……。
だが今、お前の話を聞いて思った。安西先生の目は――確かだったんだ」
一度目を閉じ、紗良を見据える。
「橘は、唯一無二の警護官だ。
医師だったからじゃない。
優しいからでもない」
「彼は、報われなくてもいいと思っている。どんなに過酷な状況でも、どれだけ無力を突きつけられても、目を背けずに――正面から向き合える男だ。
それはな、簡単にできることじゃない。才能でもなく、訓練でも身につかない。“根”の部分なんだよ」
父の声には確信があった。
「私は……お前の隣にいるべきなのは、橘だと思ってる」
「どんな関係になろうと関係ない。
彼は、変わらずにお前を守る。命を賭けてでも。
――橘以外に、お前を任せられる人間はいない」
沈黙が落ちる。
その言葉の意味と重さが、紗良の胸にじわじわと沁みていく。
父の決意と、橘への信頼が――彼女を包み込んでいた。
ただ、娘の顔を静かに見つめていた。
やがて、ゆっくりと息を吐き、言葉を選ぶように口を開く。
「……お前の気持ちは、痛いほどわかったよ、紗良」
その言葉は、決して軽くはなかった。
父としての、そして政治家としての重みを帯びていた。
「だが――橘は外せない」
紗良が顔を上げ、驚いたように父を見る。
「どうして……? 警護なら、他の人でも……」
父は、椅子に深く座り直し、目を細める。
「紗良、お前は……私の分身なんだ」
その言葉は、温かく、同時に切実だった。
「安西先生が襲撃された後、亡くなるまでの間に……毎日、私に電話をくれたんだ」
記憶を辿るように、父はゆっくりと語る。
「かすれた声でな。呼吸も苦しそうで、それでも絞り出すように伝えてくる。
“今のうちに、全部言っておかなきゃ”と……。私が何も言えなくなるくらい、毎晩、震える声で話してくれた」
そして――
「最後に、安西先生はこう言った。
“この世で一番大切なものは、橘に守らせろ”と」
父は唇を引き結び、静かに続けた。
「そのときは、正直思ったよ。なぜ、あの新人警護官を?と……。
だが今、お前の話を聞いて思った。安西先生の目は――確かだったんだ」
一度目を閉じ、紗良を見据える。
「橘は、唯一無二の警護官だ。
医師だったからじゃない。
優しいからでもない」
「彼は、報われなくてもいいと思っている。どんなに過酷な状況でも、どれだけ無力を突きつけられても、目を背けずに――正面から向き合える男だ。
それはな、簡単にできることじゃない。才能でもなく、訓練でも身につかない。“根”の部分なんだよ」
父の声には確信があった。
「私は……お前の隣にいるべきなのは、橘だと思ってる」
「どんな関係になろうと関係ない。
彼は、変わらずにお前を守る。命を賭けてでも。
――橘以外に、お前を任せられる人間はいない」
沈黙が落ちる。
その言葉の意味と重さが、紗良の胸にじわじわと沁みていく。
父の決意と、橘への信頼が――彼女を包み込んでいた。