両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「俺は渋木(しぶき)唯冬(ゆいと)

「私は―――」

名乗る必要があるのだろうかと我に返って黙り込んだ。
ふわりと新緑に似た香りに気づき、ハッとするとそばにその綺麗な顔があった。
近いけれど、逃げれない。
合わせた視線に胸が苦しくなった。
なぜだろう。
この人は私に対して真剣に向き合っている。
そんな気がして、いつもならうまく人付き合いから逃げている私なのに逃げることができなかった。

「俺は君を知っているよ。雪元(ゆきもと)千愛(ちさ)さん」

反射的に椅子から立ち上がった。
なぜ、知っているのだろう。
知っているとするならば、昔の私を知っている人だ。

「まあ、座って」

腕をつかまれ、彼は椅子を指さした。

「俺は怪しい人じゃない。危害も加えない。むしろ、君には好意を持ってる」

好意?
その言葉に眉を潜めた。
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