両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
私にそんな好意をもつ人間などいるのだろうか。
今の私に利用価値があるとは思えない。
職場でも暗いと言われたばかりだ。
きっとこの人は私がまだピアノが弾けると勘違いしているに違いない。
何度も繰り返した言葉を口にした。

「ピアノはやめました。弾けないんです」

「知ってる」

「もう私は昔の私じゃありません」

「今の君も好きだよ」

彼は真剣な顔をしていたのに思わず、嗤ってしまった。
今の私が好き?
今の私になんの価値があるというの?
嗤った私を彼は悲しそうな目で見ている。
哀れみでもなく、失望でもなく、ただ悲しいという感情。

「信じてもらえないか」

「今の私はただの会社員です。しかも、ほとんど初対面ですよ?」

「好きなんだけどな。じゃあ、信じてもらうためにまずは仲良くなろうか?」

「なりません」

こんな胡散臭い人と仲良くする?
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