両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
ばちっと目を開けた。
嫌な予感しかない。

菱水(ひしみず)音大附属高校で後輩だった雪元千愛さんです」

や、や、やっぱりーーー!!
宰田さんがごめんなさいっ!と手を合わせていた。

「宰田さん!知ってたんですかっ!?」

「おおまかなことだけですっ!」

会場から『誰?』『後輩?』という声が聴こえてくる。
コンサートの雰囲気を壊すわけにはいかない。
どうしようと思っていると、ピアノが二台あるのが目に入った。
最初から、これは用意されていたものだ。

「おいで。千愛」

唯冬が呼ぶ声。
二台のピアノ。
もう私はなにが始まるかわかっていた。
けれど、逃げれない。
どうしよう、怖い。
そう思っていると唯冬が『砂糖菓子を』と小さい声で言っていることに気づいた。
砂糖菓子?
バッグの中から小さな銀の缶を取り出す。
甘い砂糖菓子。
それを一つ口にする。
―――甘い。
唯冬が私にくれたもの。
今ではこの砂糖菓子がピアノを弾く時のスイッチとなっていた。
口の中で溶けきった時、肩の力は抜けて冷静さを取り戻していた。
今は前に進むしかない。
唯冬を信じて。
すうっと息を吸い込んで足を一歩踏み出した。
名前を呼ばれたら、舞台にあがるしかないのだ。
明るいスポットライトが照らしている。
今から私が立つ場所を。
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