両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
宰田さんが椅子を持ってきてくれた。

「ありがとうございます」

落ち着かない気持ちで椅子に座り、暗い舞台袖から舞台を眺めた。
あそこで私も弾いていたんだと思うと不思議な気持ちになる。
眩しい場所―――
音のない#静謐__せいひつ__#な会場に音が響く。
波紋のように静かに広がる透明感のある音。
三人が奏でるのはグノーのアヴェマリア。
清らかで澄んだ音は波立つ心を静めてくれる。
チェロ、ヴァイオリン、ピアノの三重奏はどの楽器も主張しすぎずバランスがいい。
お互いの癖を理解しあっている。
身じろぎ一つせず、真剣にその音を聴いた。
自然に指が動く。
唯冬の演奏は一緒に暮らすようになってから、いつも聴いていたけど、ホールと部屋じゃ全然違う。
音の響き、熱、空気―――目を閉じる。
心地よい音を聴きながらいた。
数曲までは。

「それでは、ここで特別ゲストをお迎えしています」

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