両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
唯冬が私に合わせてくれるのがわかる。
大丈夫。
唯冬となら自由にやっても崩れない。
私は私の演奏を今はただやるだけ。
この曲を。
鍵盤の上で指が踊るように跳ねる。
蜘蛛が地を這い、人々を襲う。
毒蜘蛛にかまれた人々は毒が体に回らぬよう生きるために踊る。
苦しみの中で楽しげに踊る姿。
毒すらも打ち消す強さをもって―――駆け抜ける。
ラスト一音。
その音と同時にバッと指を離して、手を掲げた。
しばらくの静寂の音、拍手が巻き起こり、演奏が成功したことに気づいた。
昔、コンクールできいた拍手の音と違う。
なぜだろう。
今、耳にした拍手が私にとって初めての拍手に思えた。

「よかったよ」

「残念。あっという間だった」

コンサートの雰囲気を壊すことなく、弾き終えることができた。
それだけでもじゅうぶんだったのに。
ぱちぱちと拍手をする逢生さんと微笑む知久さんの顔に安堵した。
唯冬は―――

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