両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「唯冬……」

「悪い……少し待ってくれるか」

顔をあげた唯冬は涙目に見えた。
唯冬は待っていたのかもしれない。
私以上に―――私が舞台で弾くことを願っていた。
知久さん達は私に言った。

「どう?俺達と一曲弾いてみない?」

「唯冬は見物で」

「おいっ!」

唯冬は怒っていたけど、二人は気にしない。

「カルメンで!」

「知久の得意なやつ……」

逢生さんは不満そうにしていたけど、会場はわいていた。
知久さんのカルメンのハバネラ。
お客さん達の顔を見るとこの曲はすごい人気なんだなと思った。
情熱的に愛を囁く。
誘惑し、魅了して相手を翻弄する。
知久さんのバイオリンと逢生さんのチェロが女性の声で歌っているようだった。
会場の視線は二人にくぎ付け。
これ、最後はハッピーエンドなカルメンですか?というくらいの音。

「知久らしいな」

唯冬が呆れていた。
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