両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「遅いわね……」
指に視線を落とした。
銀色に光るペアリング。
時間が空くたびにちらりと指輪を見てしまう。
ピアノを弾く時は私も唯冬もはずしているけど、それ以外はしっかりつけている。
「年配のお客さんって誰なのかな」
まったく思い浮かばない。
ピンポーンとインターホンがなり、ドアを開けると唯冬と菱水音大付属高校時代のピアノ教師、隈井先生が並んで立っていた。
「やあ。雪元さん、元気だったかね」
前より髪も白くなり、すっかり老紳士という様子だった。
まだ高校では現役で厳しい指導をされていると唯冬から話を聞いていたけど。
もしや―――
「お久しぶりです。その……先生、お元気そうで」
「千愛。驚いただろう?コンクールに向けて隈井先生に指導をお願いしたんだ。でも、隈井先生は忙しい方だから、週に三回、一時間程度になる」