両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
それに私が前回のコンクールで迷惑をかけてしまった結朱さんだって、私のことを待っていると言ってくれたのに。
ここで棄権したと聞けば、間違いなく軽蔑される。
唯冬の両親もどんな相手だろうと思うはずだ。
コンクールで負けるなら、まだいい。
弾けないまま、終わるのだけは嫌だった。
虹亜はなんとしてでも私がピアノの道に戻ることを阻止したいのだろう。

「どうしたら……」

息苦しい暗闇の中、胸元のネックレスを
握りしめた。
手の中には指輪がある。
落ち着かなくては。
そう思うのに昔の記憶がよみがえり、手が震えてしまっていた。
二度と出してもらえないのではないかという恐怖。
暗闇が胸を蝕む。
両親の怒鳴り声。
厳しい練習。

「唯冬……」

気持ちが崩れそうになった時、暗闇に目がなれ始め、倉庫の中になにかあるのがぼんやりと見えてきた。

「ピアノ……」

古いピアノだった。
木製のアップライトピアノの蓋を開け、音を確認する。

「ドアは叩けないけど、鍵盤なら」

椅子もある。
暗闇の中で私は何度もピアノを弾いた。
だから、大丈夫。
しんっとした世界。
だけど、私の頭の中には音がある。
私の大好きな人の音。
すっと指を掲げてあの雨の日と同じ音を奏でた。
あの人に届くように。
どこにいても私を見つけ出せるように。
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