両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「ピアニストになれなかったかもしれないけど、あなたはいい指導者よ。それに私はあなたのピアノが一番好きよ」

「そうか」

「ええ」

妻は昔と同じ、可愛らしい微笑みを浮かべる。
まったく、いくつになっても少女のような人だ。

「ねえ、あなた。彼女が弾いていた曲、素敵だったわね」

「そうかね」

「まあ!とぼけるの?それともボケたのかしら」

「ボケとらん!」

あらまあ、そうなのとおっとりと返された。
どいつもこいつもすぐに人を年寄り扱いするのだから、困ったものだ。

「私とあなたが結婚した日に弾いてくれた曲だったわね」

「なにがだ」

「やあねえ、とぼけて。千愛さんが弾いていた曲よ」

「よくおぼえているな」

「あなたのピアノが聴きたくなったわ。少し弾いてくださる?」

「お前にはかなわんな」

「妻をたてること。それが夫婦円満のコツでしょう」

知っている。
そして、私は君が一番だ。
今も昔も変わらず。
口にはしないが、君をずっと愛している。
だから、弾こう。

「では、君のために弾こうか」

妻と腕を組み、夕暮れに染まるイングリッシュガーデンを抜けて家の中向かう。
ピアニストにはなれなかったが、私は幸せだ。
彼女のために愛の喜びを弾けるのだから―――
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