両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
妻もそれを間近で見ていたから、彼女の境遇が普通とは少し違うものだと察したようだった。
『とても美味しいです。手作りのお菓子って美味しいですよね。自分ではこんなにうまく作れません』
『そう……お土産に持って帰ってちょうだい。たくさん作りすぎてしまったから』
作りすぎていないのはわかっていたが、私も黙っていた。

「幸せそうでよかったわ」

妻と私は千愛さんの姿が見えなくなるまで見送った。
私の教え子はたくさんいるが、彼女は少し違う。
妻もそれを感じているようだった。

「きっと素敵なピアニストになるでしょうね」

「彼女はもうピアニストだ」

天才と呼ばれただけある。
少しのアドバイスだけで素晴らしい演奏をしてしまうのだから。
それだけではないか。
渋木君の存在が大きい。
彼女に足りなかったものが、ようやく手に入った。
かけていたピースがパチンとはまったかのように。

「素晴らしい演奏だった。私にはあんな演奏はできない」

指導するのとピアニストになるのとはまた違う。
ほんの一握りの選ばれた人間だけだ。
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