両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「雪元千愛さん。よかったら、俺達の演奏を聴いていかない?」

穏やかで優しい声。
私は首を横に振った。

「そうか……」

残念そうな声。

「風邪をひくから、中に入りなさい。卒業したというのに世話が焼ける……!」

隈井先生は怒りながらも声は優しい。
この三人は先生にとって優秀で特別な卒業生なのだろうか。
私と違って自慢できる生徒だったに違いない。

「失礼します。今までご指導していただき、ありがとうございました」

別れの挨拶をし、いつものように頭を下げた。
さっきまで騒がしかった部屋は雨の音が聴こえるくらいの静けさがあった。
そして、背を向けた私に隈井先生は言った。

「君が帰りたい場所が見つかれば、また弾けるようになるだろう」

弾けなくなった私に隈井先生はそう言った。

―――まだ弾けないままの私には帰りたい場所なんてないのだろう。

暗いアパートの部屋の中、膝を抱えたまま、窓にあたる雨音をずっと聴いていた。
正しい音を探して。
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