両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「あら、雨が降ってきちゃった。せっかくテラス席を準備したのに」
店長ががっくりと肩を落とし、あわただしく窓を閉めに行った。
お菓子みたいなバニラの甘い香りが消え、雨の匂いが窓から入ってきた。
私と正反対の柔らかい空気をもった人。
笑顔も素敵で明るくて優しい。
あんな綺麗な恋人がいるのに―――
「……簡単に人を好きだなんて言わないで」
ザァーッと雨が地面にたたきつけるような音がした。
葉を叩き、地面をえぐる。
雨の音が聴こえてきて、あの日のサティを思い出す。
触れた唇の感触も熱も。
鍵盤に指をおいた。
自分の手の甲が見える。
あれは私にとって悪魔との契約だったのかもししれない。
ダーンッという音が頭に響く。
すべての指がピアノに触れて、離す。
鍵盤の感触が指から脳へと駆け巡り、体が震えた。
蝶々は逃げ出し、春の日差しは厚い雲の中に隠れ去る。
コンクール以来の数年ぶりのピアノ。
曲なのか、曲じゃないのか、わからない滅茶苦茶な音が鳴り響いた。
感情が揺さぶられる。
今まで妹に馬鹿にされても両親に酷い言葉を投げつけられても動かなかったのに。
熱を失っていた心に何かが灯った。
それは間違いなくあの渋木唯冬のせいだった―――
店長ががっくりと肩を落とし、あわただしく窓を閉めに行った。
お菓子みたいなバニラの甘い香りが消え、雨の匂いが窓から入ってきた。
私と正反対の柔らかい空気をもった人。
笑顔も素敵で明るくて優しい。
あんな綺麗な恋人がいるのに―――
「……簡単に人を好きだなんて言わないで」
ザァーッと雨が地面にたたきつけるような音がした。
葉を叩き、地面をえぐる。
雨の音が聴こえてきて、あの日のサティを思い出す。
触れた唇の感触も熱も。
鍵盤に指をおいた。
自分の手の甲が見える。
あれは私にとって悪魔との契約だったのかもししれない。
ダーンッという音が頭に響く。
すべての指がピアノに触れて、離す。
鍵盤の感触が指から脳へと駆け巡り、体が震えた。
蝶々は逃げ出し、春の日差しは厚い雲の中に隠れ去る。
コンクール以来の数年ぶりのピアノ。
曲なのか、曲じゃないのか、わからない滅茶苦茶な音が鳴り響いた。
感情が揺さぶられる。
今まで妹に馬鹿にされても両親に酷い言葉を投げつけられても動かなかったのに。
熱を失っていた心に何かが灯った。
それは間違いなくあの渋木唯冬のせいだった―――