両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
音を出さないようにそっと重たい扉が開かれた―――
ホールの扉を開けると一気に会場の空気が流れ込んでくる。
その空気が過去を呼び起こした。
弾けなくなった瞬間と両親からの罵声、妹の嘲笑、そして暗闇。
嫌だ―――と思ったその瞬間、バイオリンの音がその過去を引き裂いた。

「知久の音は明るいだろ?俺ともまた違う、あいつは燃える炎の明るさだ」

バイオリンから奏でられる音は自信たっぷりで華やかで人を魅了する。
暗い気持ちを吹き飛ばしてしまうくらいに。
曲はパガニーニのカプリース。
彼のバイオリンは女性に愛を語りかける甘い声に似た音を出し、時々、会場に視線を送り口の端をあげ微笑む。
これは確信犯。
そう思わずにはいられない。
タイのないタキシード、ほとんど私服なのでは?という服で髪は後ろにまとめ、前髪がほんのすこしだけこぼれていた。
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