両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
それがよけいに彼の持つ色気をさらに増して、女性客はうっとりと見つめている。
会場は女性客が大半だった。

「あいつは女を口説く時にこの曲を弾く」

真剣に聴いていると自分がここに連れてきたくせに不満そうだった。
面白くない顔で唯冬は言った。
さっきまで褒めていたのに。

「わかる気がします」

きっと本人も明るい人なのだろう。
難易度の高い曲で知られているのにそれをなんて軽やかに弾くのだろうか。
確かに唯冬が言うように甘い言葉を女性に話すみたいに音を鳴らす。
こちら側に向ける視線は熱っぽく、ほほ笑んで。

「千愛、あいつに惚れないように」

冗談なのか、本気なのかわからないことを唯冬は言った。
けれど、確かに伝わってくるのは音楽に対する情熱―――曲が終わるとじゃんっと言わんばかりに弓を高く掲げた。
拍手と歓声がわあっと巻き起こった。
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