両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
こちらを上目遣いで見る唯冬はすごく色っぽい。

「ありがとう」

「ど、どういたしまして……」

唯冬は結朱さんを横目で見て、くすりと笑った。
結朱さんは顔を赤くし、唯冬をにらんでいたけど、唯冬のほうはまったく気にしてない。

「千愛のために弾く。デートに遅れてきたおわびとして」

ざわざわと声がする店内に澄んだ音が響いた。
優しく甘い砂糖菓子みたいな音。
結朱さんがぽつりと呟いた。

「愛の夢……」

リストの愛の夢。
この曲をゆっくりと時間をかけて弾くなんて―――まるで愛の囁きのよう。
思わず、顔が赤くなってしまう。

「こんな風に想われている彼女が羨ましいわ」

「本当!素敵ね」

唯冬が私を見てにっこり微笑む。
胸が苦しい。
こんな気持ち、知らなかった。
そんな風に弾けるんだという嫉妬とそれから言葉では言い表せない感情。
上着からは彼の香りがして、その安心感から涙がこぼれた。
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