両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
私はもう彼の手のなかに落ちている。
こんなの逃げられない。
ずるすぎる。
わあっという歓声が響き、演奏が終わったのだと気づくくらい彼の曲を聴きいっていた。

「千愛。なに?感動した?」

ほら、とポケットからハンカチを取り出して渡してくれた。

「あ、ありがとう」

「嫌な思いさせたこと、これで帳消しにしてくれる?」

唯冬はすっと目を細めて虹亜と結朱さんを見た。

「さあ、どうぞ?」

次は結朱さんの番。
結朱さんがひるむのがわかった。

「そうだな。どうせなら同じ曲で弾いてもらおうか」

「同じ曲!?」

「できない?もしかして、暗譜してない?店員さん、悪いけど、楽譜ある?」

「あ、は、はい」

観客は『楽しみね』『次は陣川さんだって』という声が囁かれ、引くにひけなくなっていた。
唇が震え、顔色が悪い。
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