両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
大きな旅行かばんを手にして軽々と運んでくれる。

「えっとそれは―――」

きちんとしまってなかったのか、バッグのポケットから、なにかが落ちた。
乾いた音がして床に落ちたのはキーケースで、それを目にした私は目の前に闇が落ちたような気がした。

「キーケース?」

「待って!」

それはだめ。
アパートの鍵でもピアノの鍵でもない。
その鍵は二度と使うことのない鍵。
唯冬が手を伸ばしとってくれようとしたのを遮り、慌てて拾った。

「ごめん。大事なものだった?」

「……これ、実家のピアノの部屋の鍵なの」

キーケースを握りしめて、なんとか声を振り絞った。

「ピアノの部屋?実家には帰ってないんだろう?」

「そうよ……」

帰りたくない。
両親も一度だって私に帰ってこいなんて言ったことがない。

「いらないなら、捨てようか?」

ぶんぶんっと首を横に振った。
いらないわけじゃない。
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