「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
 驚きのあまり長机の上のペンケースを落とした。
 カッシャーンと派手な音がして、ペンがあちこちに飛び散る。

「あ、ごめん」

 大塚さんが慌てて、拾い集めてくれる。

「いえ」

 私も床に転がったペンを拾う。

「はい」

 頭上で声がした。
 顔を上げると眼鏡をかけた先生の顔があって、頬が熱くなる。

「あ、ありがとうござます」

 先生の手からペンを受け取ると、先生は何事もなかったように生徒たちの方を向いた。
 何だかやっぱり避けられている気がする。私、何かしたんだろうか?
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