「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
 シナリオ講座の後はショッピングセンターの1階にあるカフェに大塚さんとやって来た。
 大塚さんも私もアイスコーヒーをレジで受け取り、ソファ席に行く。
 大塚さんと横並びでソファに腰掛けた。

「こういうのって、彼氏と座ったりするんだろうね?」

 何気なく大塚さんが言った彼氏という言葉に先生が浮かぶ。いつか先生とこのソファに座ってコーヒーが飲めたらいいな。

「ねえ、藍沢さんと小早川先生ってもしかして付き合っているの?」

 アイスコーヒーを噴き出しそうになった。
 大塚さん、もしかして、それが言いたくてソファに触れたんだろうか。

「どうしてそんな話が出てくるんですか? 先生とはそんな関係ではないですよ」
「でも、先生と似た人と藍沢さんが手をつないで歩いていたって話を聞いたんだけどな」

 えっ!

「それって、まさか海浜公園で?」
「うん。同じシナリオ講座の生徒さんが話していて、私、藍沢さんとよくいるから、小早川先生と藍沢さんの仲を聞かれたのよね」

 知らない間に大塚さんにご迷惑をかけていたんだ。

「大塚さん、私のことですみません。でも、先生とは本当にそういう仲ではないので」
「そうみたいね。その話を聞いてから、藍沢さんと小早川先生のことを観察していたけど、先生は藍沢さんに対して、みんなと同じように扱っている感じだし」

 私、観察されていたのか。全く気づかなかった。

「でも、藍沢さんは小早川先生のこと好きよね?」

 ドキッと心臓が脈打つ。

「えーと、あの……」

 頬に熱が集まるのを感じる。恥ずかしい。でも、自分の気持ちを誤魔化したくない。

「はい。好きです」

 大塚さんが嬉しそうに手を叩く。

「やっぱり! うわっ、藍沢さんおめでとう!」

 大塚さんに抱きつかれた。
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