「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
 雨だったので今日は自転車ではなく、バスで図書館まで来ていた。
 先生は車だったので、乗せてもらうことになった。
 先生の車に乗ったのはこれで三度目だ。
 この間、海浜公園でプリンアラモードを食べた後も、先生は私の家まで車で送ってくれた。

「雨上がったな」

 車を運転しながら先生が口にした。

「そうですね。あ、虹だ」

 助手席の窓からまだ明るい空にかかる虹が見える。

「どこ?」
「左側に見えます」
「残念。運転中だから見えないや。藍沢さん、俺の分も見といて」
「わかりました。しっかり見ておきます」

 私はスマホを取り出し、パシャッと窓から見える虹を取った。
 肉眼では良く見えたけど、写真にすると微妙だ。

「写真撮ってくれたの?」
「あとで先生に見てもらおうと思ったんですけど、ぼやけてて」
「それでもいいよ。あとで頂戴」
「いいですけど」

 ぼやけた写真なのに、何だか先生は嬉しそうだ。

「期待しないで下さいよ。ほんとうに、ぼやけた写真なんですから」
「わかってるって」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか?」
「藍沢さんと一緒だからかな」

 心臓がピクンと反応する。
 先生はいつも思わせぶりな発言をする。

「そういうことは言わない方がいいですよ」
「どうして?」
「どうしてって……」

 また先生は答えづらい質問を投げてくる。
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