「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
「それは自分で考えて下さい。あ、先生、そこの交差点右に曲がった方が駅近いですよ」
「了解。さすが地元だね。よく知ってる」

 先生が滑らかなハンドルさばきで右折する。
 先生の運転は優しい。スピードを出し過ぎないし、ブレーキもきつくない。安心して乗っていられる。

「ところで、先生。車なのにお酒飲んで大丈夫なんですか?」
「帰りは運転代行業者に頼もうと思っているから」

 それを聞いて安心した。

「そういえば藍沢さんって車の運転するの?」
「実家に帰って来てから偶に運転します。先生は電車よりも車派ですか?」
「そうだね。いろんなところ行けるから車の方が多いかな」
「どんな所行くんですか?」
「この間、鎌倉に行ったかな。ドライブには丁度いい距離だったよ」
「鎌倉まで車でいっちゃうんですか。私も行ってみたいな」

 願望が自然と口から出てハッとする。

「いいよ。今度ドライブしよう」

 きっと先生は社交辞令で言ってくれているのだろう。

「ありがとうございます」
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