「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
 コインパーキングまで来て、先生に待っていると言ったのは余計だったことに気づいた。あのまま解散で良かったんだ。先生と一緒にいたくて、欲深いことを言った。先生に迷惑をかけていたらどうしようと、さっきより暗くなった空を見て思う。

「藍沢さん」

 五分後に先生が現れた。

「先生、手間をとらせてすみまん」
「いや。なかなか面白かったよ。はい。おつり」

 そう言って先生が私が渡した五千円札をそのまま返す。

「全然、崩れてないじゃないですか」
「大した額じゃなかったから、今夜はいいよ。それに俺が誘ったし」

 前回も先生におごってもらったから、さすがに申し訳ない。

「いただけません。今夜は私に払わせて下さい。前回もおごってもらいましたよ」
「それを言うんだったら、藍沢さん、パン屋でお礼だと言っておごってくれたじゃないか」
「それは、先生の家でカレーをごちそうになって、泊めてもらったからで」
「わかった。家で飲み直そう。で、この藍沢さんの五千円でお酒を買えばいい」
「家って先生の?」
「そう。家だったら藍沢さんの知り合いに会う心配もないだろ?」

 確かにそうだけど、まさか先生の家に連れて行ってもらえるとは思わなかった。

「家は嫌だった?」
「そんなことないです。じゃあ、スーパー寄って行きましょう」

 ここから一番近いスーパーはショッピングセンターに入っている母がパートを務める店だ。今日は三時までだと言っていたから、この時間はいないはずだ。

 先生と徒歩でショッピングセンタ―に向かった。
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