「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
「えーと、今、教わっているシナリオ講座の先生」

 母が先生に向かって頭を下げる。

「娘がいつもお世話になっております。藍沢美桜の母です」

 母に挨拶をされた先生が驚いたように息を飲んだ。

「こちらこそ、美桜さんにお世話になっております。小早川春希と申します」

 先生もお辞儀をする。
 何だか気まずい空気が漂う。

 これから一人暮らしの先生の家でお酒飲むなんて言ったら、先生のイメージダウンになるかもれしない。

「先生とは偶然会ったの」

 この場はそう言うのが一番いい気がした。

「美桜、お酒飲んでる?」

 私に近づいた母が言った。

「えっと、ちょっとだけ」

 母が先生を見る。

「もしかして先生とお酒飲んでいたの?」

 不審そうに母が見てくる。
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