「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
「許せん! その男!」

 普段穏やかな大塚さんが叫んだから驚いた。
 公園にいた人たちが一斉にこちらを見た。

「大塚さん、落ち着いて下さい。見られていますから」
「だって、だって、酷いじゃない! 藍沢さんのような真面目で可愛らしい子を弄ぶなんて」

 大塚さんは心から怒ってくれているようだった。

「決めた! 今日からその男に呪いの祈りをささげる」

 大塚さんが拝み出した。

「ささげないで下さい。大塚さんの労力がもったいないですから」
「だって、だって、あーくやしい!」

 悔しそうに大塚さんが何度も地面を蹴る。
 まるで自分のことのように怒っている大塚さんを見て胸がじーんとした。

「大塚さん、ありがとう。真剣に怒ってくれて嬉しいです」
「藍沢さんのような心優しい子にはきっと素敵な王子様が迎えに来てくれるんだから。枯れているとか言っちゃったダメよ! 藍沢さんはまだまだ花盛りだからね」

 大塚さんって本当にいい人だ。お助けサービスの仕事をして良かったと今、心から思った。

「はい」

 私は笑顔で頷いた。
< 60 / 178 >

この作品をシェア

pagetop