「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
「失礼なのは、高坂さんだと思うけど? 家族の席にずかずかと入って来て」
「美桜、なんてことを言うの」

 母が眉根を寄せる。

「お母さん、私が会社辞めたの、高坂さんのせいだから。私をボロボロにしたのはこの人なんだよ!」

 父と母の目が丸くなり、高坂さんは気まずそうな顔をする。

 これ以上ここにいたくなくて、店から飛び出した。
 駅前の通りを歩きながら、忘れていた怒りが込み上がってくる。

 なんで、高坂さんがいるのよ! なんでよ!

 やり場のない怒りが胸を締め付け、うまく感情がコントロールできない。

「藍沢!」

 後ろから声がした。

「藍沢、ちょっと待てよ」

 高坂さんが追いかけて来た。
 私に並走するように歩くが無視した。

 もう一言も話したくない。

「藍沢!」

 ああ、しつこい。なんでついてくるの!

「家までついて来るつもりですか?」

 立ち止まって高坂さんを睨んだ。

「一体どういうつもりなんですか? 私はあなたのことが大嫌いです!」

 高坂さん以外の人にこんなことは言ったことがない。

「大嫌いでもいい。話を聞いてくれ」

 真剣な表情で見つめられる。
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