雨と妖精に導かれて ──御曹司CEOからの溺愛ラビリンス

【第30章『心の中の灯火』】

 軽井沢。
  白銀の森に囲まれた高原のチャペルは、まるで絵本の中に現れたように、静かで幻想的な空気をまとっていた。
  クリスマス・イヴの夜、チャペルの尖塔にはひときわ明るい星型のライトが輝き、あたり一面に舞い降りる雪が、まるで時間を止めてくれるかのようにすべてを柔らかく包んでいた。
 その夜、美里は、静かに扉の前に立っていた。
  真っ白なシルクのドレス。
  胸元には繊細なレースがあしらわれ、ヴェール越しに透ける肩先が、凛とした美しさを際立たせている。
 扉の向こうでは、すべての人が待っていた。
 泰雅。
  今里。
  羚音、怜聖、慈美、彩果、多央、茂貴、知佐子、帝我……。
  それぞれの“縁”が交差してきたすべての人々が、今夜この場所で“ひとつの結び目”を見届けようとしていた。
 ふと、美里の耳に風のような声が届いた。
 《緊張してる? でも、大丈夫。だって、この場所は“あなたの心の灯火”でできてるから》
 それは、妖精・アイラの声だった。
 彼女の言葉に、美里はそっと目を閉じ、深く呼吸を整えた。
  まるで、これまで歩いてきたすべての時間に感謝するように。
 そして、扉が開いた。
 煌めく灯火と共に、雪の粒が光の粒へと姿を変えながら舞い上がる。
 その先には、タキシード姿の泰雅がいた。
 彼の瞳は、これまで見たどんな光よりも深く、優しく、そして強く、美里を見つめていた。



 チャペルの中央、バージンロードを歩く美里の一歩一歩に合わせて、天井から舞い降りる雪が淡い光に変わる。
  その光は、まるで妖精たちが祝福の言葉を雪の一粒一粒に託して降らせているかのようだった。
 泰雅のもとにたどり着いたとき、ふたりの視線がぴたりと交わる。
  その瞬間、会場にいる誰もが、息を呑んだ。
 「ようこそ、僕の人生へ」
 泰雅が、美里にそっとささやいた。
  その言葉は、あらゆる誓いの言葉よりもまっすぐで、温かかった。
 神父の問いに、美里ははっきりと答える。
 「はい。私は彼と共に生き、愛し、支え合うことを誓います」
 続いて、泰雅が美里の手を取り、静かに口を開く。
 「私は、君のすべてを受け入れ、どんな困難も共に乗り越えると誓う。……この先、何があっても、君の心の灯火を守ると」
 その言葉と共に、ふたりはリングを交換した。
  その瞬間、美里の胸元の“心をつなぐ鍵”のペンダントが、まばゆい光を放った。
 光はチャペル全体に広がり、まるで天から降る星のように会場を包み込む。
 「ふたりの魂が、ひとつになった証です」
 神父の宣言のあと、ふたりは誓いのキスを交わす。
  その背後で、妖精たちが雪を光へと変え、チャペルを純白の祝福で満たしていく。
 観客席からは自然と拍手が湧き上がり、それぞれが笑みを浮かべながら立ち上がった。
 今里は涙ぐみながら羚音と肩を叩き合い、彩果と慈美はそっと手を握り合っていた。
  怜聖も遠くからうなずき、帝我はにやりと笑いながら「戦略勝ちだな」とつぶやいた。
 すべての想いが交差し、ふたりの未来に注がれていた。
 ――そして、美里と泰雅はその光の中で、手を取り合って歩き出す。
 これが、“心の中の灯火”に導かれた、ふたりの新たな旅立ちだった。
 【第30章『心の中の灯火』 終】
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