雨と妖精に導かれて ──御曹司CEOからの溺愛ラビリンス

最終章【第40章『描いた絵が現実になる未来』】

 5月12日。
  ちょうど一年前、羽田空港の雨の夜に出会ったあの日から、ぴったりと一年。
 北海道・美瑛の丘は、初夏の光に満ちあふれ、風に揺れる花々がカラフルな波となって広がっていた。
  ルピナス、ネモフィラ、ポピー、ラベンダー……その色彩は、まるで誰かの“心のスケッチブック”がそのまま地面に映し出されたようだった。
 「……ねえ、見て」
 美里の声に、泰雅が抱き上げていた赤ん坊・光希の視線がそちらに向く。
  まだ言葉を話せないその瞳が、まっすぐに青空を見つめている。
 空には雲ひとつなく、深い藍色に近いほどの青。
 そして、その空の中に、ふわりと“絵のようなかたち”が現れた。
 「……え?」
 美里が小さく息を呑んだその先。
  空に浮かんでいたのは、クレヨンで描かれたような、手描きの家、緑の木々、笑顔の家族──そして、妖精たちが舞う花畑だった。
 「……これ、光希が、今朝描いてた絵……?」
 スケッチブックのページと、空の模様が重なっていた。



 空に浮かぶ絵は、まるで命を持ったかのように揺れながら、風に合わせて少しずつ広がっていく。
  そこには、光希が描いた“家族”がいた。
  手を繋いだ父と母、その間に笑う小さな子ども。
  そして、空を舞う妖精たちと、それを見守るように咲く色とりどりの花。
 「これが……」
 泰雅は、抱き上げていた光希をそっと美里の腕に渡し、三人並んで花畑の中に立った。
  光の粒が、風とともにふたりの髪に触れる。
 「アキの力と、光希の想い、そして……あなたの優しさが、きっとこの空を描いてくれたのね」
 美里は涙を浮かべながら、空を見上げる。
  その隣で泰雅も、同じように視線を空へと向ける。
 「……あの雨の夜、君に出会えたことが、すべての始まりだった。
  君が笑ってくれた日々が、俺の“心をつなぐ鍵”になった」
 光希が小さな手を空へ伸ばす。
  その指先に、一粒の光が舞い降りる。
 《おめでとう。君たちの“物語”は、ここで終わらない。》
 妖精たちの声が、風に溶けるように響いた。
 《“未来”は、描けば広がる。信じれば、浮かび上がる。》
 その瞬間、空に映った絵が光に包まれ、ひときわ大きく輝いた。
  まるで、空全体が“祝福のキャンバス”になったかのように。
 「美里、君と出会えてよかった。……これからも、ずっと描いていこう。家族の物語を、未来の絵を」
 「ええ。光希と一緒に、ずっと──」
 三人が肩を寄せ合い、花畑の中心で見上げたその空には、確かにあった。
  “描いた絵が現実になる”という、奇跡ではなく、愛の証が。
 それは、永遠に続く家族の物語の、はじまりのページだった。
 【第40章『描いた絵が現実になる未来』 終】

< 40 / 40 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

初恋はまだ終わらない、隣の席で

総文字数/56,445

恋愛(ラブコメ)23ページ

第8回ベリーズカフェ恋愛小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
十年前、何も言わず町を去った初恋の人が、職場の撮影担当として戻ってきた。 生活情報誌の特集「ノンフィクションの恋物語」で、商店街の夫婦や家族の話を聞くたび、遠くのものだと思っていた恋が、毎日のすぐそばにあると気づいていく。 うますぎるのに硬い写真を撮る明と、守られる役から抜け出して、任される側になりたい編集者の麻美。喫茶店「文明」、古いアップライトピアノ、町の人たちの小さなぬくもりに背中を押されながら、二人は言えなかった過去と向き合い、大人になってもう一度、自分の言葉で恋を選び直していく。 笑えて、じんわり温かい読後感の恋愛小説です。
私を買ってくれた人は、世界を動かす男でした

総文字数/0

恋愛(ラブコメ)0ページ

第8回ベリーズカフェ恋愛小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
 閉店寸前の老舗ドレス工房で働く響は、工房ごと買い取った若き実業家・真叶と出会います。  派手で軽く見えるのに、危ない場所も、不利益も、響が傷つく前に先回りして潰してしまう男。けれどその守り方は、やさしさと支配の境目を何度も踏み越え、響を苛立たせます。  舞台は、箱根寄りの山の中腹にある旧女学校跡地。霧の入る教室、夜の温水プール、黄色い宝石トリフェーン、破れたドレスの裾、そして昔の少女が残した恋日記。過去と現在が交差する場所で、二人はぶつかり合いながら少しずつ惹かれていきます。  けれど周囲には「買われた女」という噂が広がり、響は恋心と、自分の仕事の名前を奪われる痛みのあいだで揺れます。  守られるだけでは終わりたくないヒロインと、守ることしか知らなかったハイスペ男子が、傷を隠さず光へ変えていく物語です。
ラベンダーミストムーンストーンの花嫁

総文字数/66,063

恋愛(ラブコメ)20ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 湾岸の高級ホテルで、マカロン職人の彼女がやらかしたのは――支配人候補の「超大事な資料」を水浸しにする失態。  怒鳴られる覚悟で頭を下げたら、返ってきたのは低い声の「結婚してくれない?」でした。しかも期限つき、同居つき、台所の皿洗い共同作業つき。  肩書きも値段も違いすぎる二人が、同じ冷蔵庫を開けて、同じ布巾で手を拭いて、言いそびれていた「ありがとう」を練習していく物語です。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop