蜜味センチメンタル

「えっと…その告白は本気?」

「はい」

「なら尚更。返事は"ごめんなさい"だよ」

羅華が半分ほどに減った皿の上のパスタを寄せながら言うと、間髪入れずに那色が問いかけてくる。

「僕がまだ学生だからですか?」

「違うよ。私ね、未だに忘れられない人がいるの。だから他の誰かとお付き合いするって考えられないんだ」

「……」

那色がどんな顔をしているか分からない。けれど関係ないと自分に言い聞かせ、パスタを巻いて運んでいく。

「…その人が、中学の時の彼氏?」

「そうだよ」

「ならなんで別れたんですか」

「別れざるを得なかったからね。どうしようもなかったんだよ」

過去を思い出せば胸が痛む。今でも彼に会いたいと思うがそれは叶わない。そんな矛盾した現実に何度心折られてきただろう。

忘れられたら良かった。だけど、彼以上に羅華の心を動かしてくれる人は現れなかった。もうこれは自分自身の問題だと区切りをつけ、今となってはすっかり恋というものを諦めていた。

「それは俺も初めて聞く話だな」

「そうですね。確かに大和さんにも話したことなかったです」

大和に話すのは日常の些細なこと。仕事の愚痴や、最近見たドラマが面白かっただとか。逆にそれが心地よかった。

20代も後半に入り、恋愛だけでなく結婚の話題も徐々に避けづらくなってきた。そんなところからかけ離れた話を聞いてくれる大和の存在は、確かに癒しになっていた。

「という訳で、この話はおしまい。そろそろ次のお酒お願いしてもいいかな?」

「え?ああ、そうだったね。ごめん。すぐに用意するよ」

さすが大和は線引きを心得ており、それ以上は突っ込んでくる事なく手元を動かし始めた。

一方で那色は無表情のまま、羅華を静かに見つめている。

彼のプライドを折ってしまっただろうか。そう思いつつ最後の食材を掬ったところで、那色は口を開いた。

「くだらない」

「へ?」

口に含む直前、ピタリと手を止める。


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