蜜味センチメンタル
照れ隠しのような笑み。それが、たまらなく嬉しくて、切なかった。
「……どんなの作れるの?」
「本当に簡単なやつ。焼き物とか、おひたしとか」
あ、でも。と那色は続ける。
「卵焼きは特訓したんで、上手に作れるようになりました」
その純粋な笑顔に、きゅんと胸がしめつけられた。
羅華は一瞬、考えるふりをした。
本当は、食べられるような気分じゃない。けれど自分のために頑張ったなんて屈託のない顔で言われてしまったら、「いらない」なんて言えなかった。
「…じゃあ、卵焼きがいいな。まだ少し起ききれてないから、あとはおにぎりでいいや」
「わかりました。因みに出汁のやつ?それとも甘いやつ?」
「出汁の方が好きかな」
「僕と一緒だ」
嬉しいな、なんて。一体どこまでが本気なんだろう。
分かっていても、突き放せない。羅華だけだと言ってくれた那色の言葉を信じてみたい。
程なくして那色がキッチンに立ち、部屋が出汁の香りに包まれる。フライパンを不器用に扱うその横顔に、羅華はつい目を細めた。
——こんな風に、穏やかに過ごす朝がずっと続いてくれるなら…
そんな願望が、ふと胸をよぎる。だがその直後、先程耳にした“ラン”との電話のやり取りが頭をよぎった。
親しげな距離感の裏に何があるのか…想像すればするほど不安になる。
けれど、問いただすには自分たちの関係はあまりにも曖昧で。羅華は結局何も言えず、運ばれてきた卵焼きを黙って口に運んだ。
ほんのりとした甘みと出汁の香りが口の中に広がる。
「……おいしい」
「本当? よかった」
那色が笑った。照れ隠しのような笑み。それが、たまらなく愛しく感じてしまった。