蜜味センチメンタル

「…はあ〜、代理店にとってクリスマスなんて、夢のまた夢ですよねぇ〜」

唐突に、鎌田がそう小さくため息をついた。

「…どうしたの、突然」

「ただの愚痴ですー。いま抱えてる案件がクリスマス特化のイベント企画なんですけど、もう脳内がずっと鈴と星とカップルで溢れてて。こっちは彼氏ともまともに会えてないのに」

「…鎌田さん、彼氏いたの?」

羅華が聞き返すと、意外そうに鎌田が目を開いた。

「珍しいですね、原岸さんが恋バナに食いついてくるなんて」

「そ、そうかな」

思わず反応してまい、羅華は目を泳がせた。

「でも、確かになんか、原岸さん最近ちょっと変わりましたよね」

「えっ……?」

「なんていうか…前より人間らしくなったというか。前は、デスクにバリア張ってるのかと思うくらいピリピリしてましたもん」

「そんなだったかな、私……」

「はい」

先輩相手にもまるで忖度をしない鎌田は短い即答した。

「なんか時々…本当に時々ですけど、ふわっと笑ってたり。あとスマホ見る回数増えましたよね」

「……なんでそんなに私のこと見てるの…仕事しなよ」

「人間観察が趣味なんです、私」

営業として大事なスキルでしょ?と言われて羅華はぐうの音も出なくなる。

反論の余地はない。ただ観察眼に優れた後輩に、まるで自分の心の内を覗かれているような気がして、落ち着かない。

「あの原岸さんに彼氏なんてマジで意外です。誰に言い寄られても表情筋死んでるのに。戦略企画部エースの結城さんもフッてましたよね?」

「いや別に告白されたわけじゃ…それに、彼氏いないし」

「うっそ!ホテルのアフタヌーンティーまで行っといて?」

「はっ?なんでそれも知ってるのよ!」

「これは不可抗力ですって。原岸さんのパソコンのデスク画面、結構視界に入るんですよ。何回かチェックしてましたよね?」

「……」


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